
2025年12月23日
幼稚園の園だより「こどものじかん」より、幼稚園スタッフが綴るエピソードをお届けします。
森の木々が赤や黄色に染まり,秋も深まってきた頃。散歩に出掛けるたびにどんぐりや松ぼっくりを拾ってお土産いっぱいで帰ってくる年少の人たち。
ある日、遠くに散歩に行った帰り道にどんぐりの硬い殻を剥きながら「どんぐりジャム作りたいんだよね〜」と言う声があがる。森の動物たちはこのどんぐりや松ぼっくりを美味しく頂いている。私たちも食べてみたいという提案からどんぐりジャムを作ってみた。(どんぐりペーストみたいな感じ。味はご想像にお任せ。)
どんぐりを食べよう!と決めたときから「どんぐりジャムの次は、どんぐりクッキーもやってみよう!」と言う声があがっていたので、後日どんぐりクッキーにもチャレンジ。
どんぐりに虫が入っていると「これは虫さんが食べてる〜!」「これはきれいな色じゃない!」など食べられそうな、美味しそうなどんぐりを選りすぐっていた。どんぐりを剥く作業は時間がかかる。それでも何個も何個も集中して”どんぐりをクッキーにする!”という願いを叶えるためにみんなは夢中になっていた。そしてみんなの願いが届き、とっても美味しいどんぐりクッキーになった。
「これが美味しく出来たら、幼稚園みんなにも作ってあげようよ!」という声もあったので次の日、みんなに振る舞うためのどんぐりクッキー制作になった。どんぐりを見る眼は肥えてきたし、2回目ともなるととってもスムーズ。丁寧にホットプレートに並べ、焼けてくる匂いをかぎながら、みんなの喜んでくれる顔を思い浮かべる。そして幼稚園のみんなの分が焼けて一人ひとりに配りに行く。年長や年中に渡すことに少し緊張していた人たちが嬉しい足取りで戻って来る。
「「ありがとう〜」ってたくさん言われた〜!」嬉しいという気持ちが声の大きさと表情に溢れていた。年中、年長の人たちも丁寧に「おいしかったよ〜」「年少さんがつくったの?」「どうやってつくったの?」とか「ありがとう〜」とたくさんの感謝の声を届けてくれた。
自分たちの手でつくったものがいつも一緒に過ごしている人たちにこんなに喜んでもらえるんだ!と実感した嬉しい時間だった。
ここのところ朝や帰りの集いでは遠くへの散歩や美味しいものをつくろう〜などの声が上がると「これが出来たら次はこんなことしようよ!」「いいね!そうしよう!」とちょっと先の未来を想像し、一度話しが始まると止まらない姿がある。これまでの自分たちの経験を話しながら、こんなことをみんなでしたい!という夢もどんどん膨らんでいく。日々、友だちの声を聞きながら、自分の声を届けながら過ごしている年少の人たちだ。自分たちの声が形となり、たくさんの人に応えてもらえる経験を積み重ねているところ。
森の中、子どもたちにとって『木』は様々な意味を持ち合わせている。「どんぐりのおかあさ〜ん」と仰ぎ見る木もあれば、朽ちた木を割いてごっこ遊びのご飯にしたり、洞にどんぐりを届けてリスの家を想像したりする。枝は道に迷ったときの『棒の神様』になったり、泥筆になったり、顔を描くと赤ちゃんにもなる。加工された板は一本橋の道になったり、楽器になったり…。子どもたちの手の中で、そのものの意味が広がっていく。
そして、この日もまた、『木』を巡って、ワクワクの身体が響き合っていた。
11時頃、グラウンドの奥の方から、タロウが乗ったトラック(ソリ)をロクが引っ張っているのが見える。ロクは力を込めてタロウトラックをランチテーブルまで運転しようとしていた。そこにエイトとマロが加わって、芝生広場へと遠回りをしてランチテーブルに到着した。タロウはお弁当にありつけて嬉しそう…、だけど、3人は頭をこすり合わせるようにしている。
覗いてみると、2本の丸太を並行に置いたトラックの駐車場を作ったらしい。でも、3人の中での心配事は丸太を誰かが持って行ってしまうんじゃないか、という事だった。そこで、看板をつくろう、ということになり、エイトは真っ先に飛び出して、段ボールの切れ端を手にして看板をつくり始めた。そんな様子にロクは身を乗り出して、「でもさ、雪が降ったら濡れちゃうよー」と何度も伝えている。けれど、作ることに没頭しているエイトの耳には入らないみたい。
すると、今度はロクが居なくなり、そして、板を脇に抱えて戻ってきた。
ロク「これ、切りたい」
そう言えば、ロクは数週間前も板をこうして脇に抱えて、そして、ベンチを作り上げていた。最近、閃くと必要な道具を準備してイメージしたものをつくっていくことに身体が向いている。
そんなロクにマロが気が付き、二人のやり取りが始まった。
マロ「ろくちゃん、今から何するの?」
ロク「たろうくんのソリの看板つくるんだよ」
マロ「もうできたじゃん」
ロク「あれは、段ボールじゃん。段ボールだと雪降ったら濡れちゃうよ」
マロ「そっか。マロもつくりたい。………木はどこにあるの?」
ロク「この木、長いから一緒に使えるよ」
ロクは見つけてきた板をマロにお裾分けするようす。マロは嬉しそうに頷いた。ロクはなんて柔らかなお誘いをする人なんだろう。ロクの行為はマロのやりたい思いを繋げていた。
一本ずつノコギリを手にしている二人。マロが先に切り始めた。ロクが「順番にやろう」と言う。そこから二人はまるで餅をつく時のように、「はい」「はい」と言って、切る人と抑える人になって、交代しながら軽快なテンポで切っていた。
しばらくすると、そこにアキトがやってきた。二人をじーっと見て、アキト「木くず、もったいない」と、呟いた。
その声に、ロクはギーコギーコと躍動していた身体をぱっと止めて、じーっと前を見つめて固まった。そして、次の瞬間、ノコギリを放して駆けていき、器を手にして戻ってきた。それを切り口の下に置き、板をそーっとそーっと撫でた。板の上に溜まった木くずが器の中へと落ちていく。ロクはニンマリ顔で器に集まった木くずを手でなぞった。
アキトの「木くず、もったいない」の声に、じーっと考えを巡らしていたロクは、木くずは集めれば、火起こしの着火剤になることを思いついたようだった。アキトは木くずづくりの名人で、集めては火起こしに使ったり、ごっこ遊びの時のココナッツにしたりしている。そんなアキトの木くずへの関心はロクに繋がっていたんだ。
そして、ロクは板はベンチにもなるし、看板にもなること、さらに、火おこしの材料にもなることを様々な繋がりを通して捉えて来たんだと知った。そして、その体験がロクの身体の中に充満しているように感じられた時間だった。
子どもたちの木への眼差しはさまざまである。そんな中で、共に暮らしている仲間から伝わってくるワクワクする身体が知らず知らずのうちに自分にとってのそのものの価値を膨らませていた。そんな風に子どもたちは一人では出会えなかったかもしれない、新たな価値を小さく小さくつくり続けているように思う。そして、共にある私もまた、子どもたちの嬉しい思いが私の身体に沁みてゆく度に、ほーっと驚かされ、世界への新たな発見をさせて貰っている。
次の日もロクは、堅い土にどうやったら看板の足を挿すことができるのかと、黙々と手を動かしていた。
風越学園の1年生から9年生全員と保護者も参加できるプログラムである「遠足(とおあし)」。遠足シーズンに入ると、お兄さんお姉さんたちが風越学園の周りを何周も走って練習する姿がある。
外で暮らす幼稚園のみんなは、そんな姿を見てどこかで憧れの思いを募らせていたのだろうか。ある日モトアツが「遠足やりたいな」という思いを伝えてくれた。足が速く、体力も人一倍あるモトアツ。ひとりでどんどん挑戦したいのかなと聞いていると、「年長みんなでやってみたい」という思いが強いことがわかった。そして、年長のつどいで「みんなで遠足したい」と緊張しながらもまっすぐ投げかけてくれた。
年長チームの中には、走ることが得意な子もいれば、苦手な子ももちろんいる。どんな反応が返ってくるかな…と私もドキドキしていると、ハルキ「俺もやりたいと思ってた!」という声から続々と「遠足やりたい!」の声。みんなで「やってみよう!」という流れになった。すると、アンナが「練習したいな〜」とつぶやく。その声で、お兄さんお姉さんたちが練習しているコース(森の中にもピンクのリボンが目印としてぶらさがっている)で早速みんなで練習してみることになった。
練習が始まると、待ってましたとばかりに先頭集団で軽やかに走っていくモトアツ。あっという間に5周走り終えると、みんなが帰ってくるのを待ち、一番最後にゆっくり走ってきた人たちがゴールをすると、「ちゃんとやめないで頑張ってた!」と肩にそっと手を置き、労いの気持ちを伝えていた。モトアツの思いをそれぞれが自分事として受け取っていたからか、途中で少し休んだとしても、諦めず最後まで自分のペースで走っていた。
それから練習を積み重ねる日々。「今日は6周走った、昨日は5周だったから」と今から自分で目標を設定している子もいれば、「遠足って歩いてもいいんだよね」と自分のペースで走る子、ただただ友だちと一緒に走るのが楽しいと感じている子と様々。でも、「遠足に出てみたい!」という気持ちは同じくみんなの中にあるようだった。そこで、幼稚園は毎年の遠足当日に応援していたが、今年は年長チームで遠足チャレンジをしてみることになった。ただ、安全面も考え、自分のペースでそれぞれ走ることは1年生になってから。今回は年長全員で『遠足のコースを体感してみる』ことを目的として、小走りくらいのスピードで、まとまってコース途中地点を目指すことになった。
そして迎えた当日。遠足スタッフのKAIさんが、年長のみんなにもぜひスタートの雰囲気も感じてほしいと言ってくださり、一斉スタートに参加させてもらうことに。年長チームは、今年は列の一番最後にまとまってついた。
9:15頃、一斉にスタート。序盤から思いっきり走る先頭集団を見ながら、「はや〜」「もうあんなところにいる!」。それぞれ飛ばしたい気持ちもあったと思うけれど、自分たちはなるべく仲間とペースをあわせて、まとまっていく。途中で誰かが立ち止まったりするかと思いきや、誰も歩みを止めない。小走りのポーズをとりながら、自分たちが目指していた折り返し地点にあっという間に9:35頃到着。20分ほどで着いてしまった。
折り返してからも余裕の足取りの人がほとんど。松ぼっくりなどを拾いながら小走りしている人たちもいる。あっという間に風越公園のグラウンド手前にくると、KAIさんがやってきて「最後思いっきり走っていいよ」と声をかけてくれる。グラウンドに入ると、それまで後方にいたモトアツはそこから全力で駆け抜けてソウと一緒に1位でゴール。その姿を見たみんなもそれぞれ最後は思いっきり走り、10:05頃ゴールをした。全員でまとまって行くとなると、途中で歩いたり止まったりする人も出て1時間半はかかるかな?というスタッフの予想をいい意味で裏切り、往復50分でのゴールだった。
ひと足先にゴールをした後は、1位の人たちのゴールを待つ。それぞれお兄ちゃんお姉ちゃんや、義務教育で知っている人の名前を呼んでみたりしている。そして、先頭の人がグラウンドに入ってくるたび、みんなで「がんばれー!がんばれー!」「あとちょっとー!」と大きな声で応援。ゴールしたら、「すごーい!」と拍手したり、ハイタッチしに行ったり。モトアツは、「八風山はたしかこっちのほう。そこの頂上まで行ったんだね。来年は(頂上まで)行きたいなぁ」とつぶやいていた。
その後のつどいで、遠足おつかれさま〜と話すと、「楽勝だった!」「かんたんすぎた!」「思ったより長かった」と、感じ方はそれぞれ。でも、はじめての遠足にチームのみんなで出れた、という充実感がにじみ出ていたように思う。
エイト「それぞれのペースで走れるのは来年から!」
ハナ「来年からそれぞれのペースで、だんだんレベルアップできるんだよ」
階段をのぼるようなジェスチャーに、うんうん、とうなずく人たち。きっと物足りなかったり、不完全燃焼だった子たちもいるだろう。でも、その悔しさをバネに、来年以降わくわく山頂を目指したりと、それぞれ未来の挑戦へとつながる一日を過ごせているといいなと思う。
この子たちが9年生になったとき、どんな遠足になるのだろう。このチームのみんなで初めてチャレンジしたことを、ふと思い出したりするのかな。この先のそれぞれのチャレンジを、どんなかたちでも応援したいなと思った。
