2025年9月10日
幼稚園の園だより「こどものじかん」より、幼稚園スタッフが綴るエピソードをお届けします。
昼下がりの森に響き渡る「カブカブ〜カブカブ〜」の声。両手を広げて風を切るように走るロク、キノ、アキトの顔はとても清々しい。そこへ「みんな、手伝って!」とユウホの声。木をぎゅっとつかむアキトをユウホが逃げないように抑え、アキ、ジョウ、リツも囲むように手を広げる。 「カブト捕まえた。 」とユウホが冷静に伝えると、リツはアキトの背後にぴったりついて離さない。
少し離れたところではロクが囚われのカブトムシになり、マナトの「このカブトも一匹捕まえといて」の声に、リツが「守っといてって言われたからね」と肩をしっかり押さえる。けれどアキトはニヤリと笑ってスルリと抜け出し、 「ブーンブーンカブト逃げちゃったよ〜だ」と自由に羽ばたいていった。
そのとき、ゴロゴロと低い雷の音が鳴る。するとマナトが「雷を捕まえるぞー!」と叫ぶ。その場にいたみんなも一斉に羽を広げ「雷を捕まえるぞー!ブーン!!」と空を見上げて走り出す。
雷という偶然の出来事によって、それまでのカブトムシと虫取りの人たちという世界を抜け出し、ついそうなっちゃったといった感じでみんなカブトムシになって空に向かって羽ばたいていった。言葉ではない、なんでかそうしたくなっちゃうこの感じに、微笑みながら「なんかいいなあ」と思う私がいた。
アキが家から連れてきた本物のカブトムシは、朝から子どもたちの関心を集めていた。じっくり観察したり、手にのせたり、餌を探したり。マナトの家から届いたスイカの皮を「カブトムシさん食べるかも」と虫かごに入れたとき、アキトは「よし、食べさせてあげよう」と丸ごと虫かごに入れてしまった。驚いて止めた私の前で、ジョウやキノも「食べるよね」と目を輝かせていた。
虫との出会いは時に複雑で残酷で、大人として迷うことも多いけれど、子どもたちはいろんな方向からカブトムシを見て、感じて、味わっていた。迷うと同時に、そのまっすぐな気持ちに心動かされる日々だ。
エイカが自宅から蝶の蛹を持ってきた。蛹は、虫かごの蓋にくっついている。この日はライブラリーの日。ライブラリーに行っている間はカバン置き場においていた。そしてライブラリーから森に戻ってくると、蝶が羽化していた。エマとユズルが発見。「ちょうちょがいるよ〜!」という声に呼ばれていく。みんなで眺めていると蝶がカバン置き場のテーブルから下に落ちる。これが蛹から羽化したものということに結びつかない人が多かった。そこにいる人たちにエイカのおうちから来た蛹が蝶に羽化したのだということを伝える。エイカは「もう一ついるから大丈夫」とのこと。羽化の瞬間を見れなかったけど家にもう一匹いて、また会う機会があるから大丈夫ってことみたい。エイカはヒロとの遊びに向かう。
サクは、蝶の事が気になる様子。羽を開いたり閉じたりしている蝶の様子をじっと見ている。エマが「さく!あそぼ!」と誘う。サク「ちょっと待ってて〜」と返事をするものの、しばらくしてもサクはそこから離れない。エマ「ねえ!サク遊ぼ!」サク「いいよ。ちょっと待って。」こんなやり取りが数回あった。スタッフ「エマちゃん。多分、サクちゃんは蝶々を見ているから、ちょっと待ってて〜って言ってるのかも。」エマ「そうか。じゃあ、えまちゃんも見る!」という。しばらく見ていたら他の遊びに行くエマ。そこにコタロウも来て「迷ってるのかな〜。ここどこ〜ってまよってるのかな?」と蝶の気持ちを想像する。サクが「がんばれ〜」と蝶を応援している。そして「えいかちゃんよんでくる!頑張れ〜、したいでしょ!」と呼びに行く。エイカは呼ばれてきてうんうんと蝶を眺めて様子を見守り、またヒロとの遊びへ戻る。
他の人たちも遊びながら、入れ替わりで蝶の様子を見に来る。羽がまだ乾いていないかもしれないと聞いて、ふ〜ふ〜と息をかけてみたり、蝶をお日様の当たるところに連れて行こうと話したりもしていた。
そしてこの日はアウトプットデイ。見学に行くためまたここを離れる事になる。蝶に雨が当たらないようにしてからそこを離れた。アウトプットディの見学から帰ってきてすぐに蝶の様子を見にいったエイカは「ちょうちょ、飛んでいった〜!」と伝えに来た。
みんなが居ない間に羽化をして、またまたみんなの居ない間に羽ばたいていった蝶。
エイカにとっては、家から持ってきた大事な蛹。でもそこにいる友だちとの遊びもこの時のエイカには大事だった様子。
蝶だけでなくセミなどの昆虫たちが活発に生きようとするこの季節。目の前で生まれてくる命に触れる機会があることも友だちと一緒にやりたい遊びに関心が広がっていることもどちらも大事な時間だったような気がする。
ユカリの「おにごっこやろう」という声に数人が集まり始まった鬼ごっこ。今日はその一場面を書き留めておこうと思う。
まずは、鬼決め。「逃げがいい」「鬼がいい」と、それぞれが声を出し始め、近くにいる逃げと鬼で小さな輪がいくつかできた。みなみが「鬼と逃げの集まる場所がちょっとわかりにくいね」と声をかけると、ソウが「逃げはこっちー!」ユカリが「鬼はこっちー!」と呼びかけ始めた。人数を数える人が出てきて、「そっちのほうが多いじゃん」「こっちは◯人で、そっちはと✕人で・・・」と、なかなか遊びは始まらない。すると、「いーれて」とユウタロウたちが入ってきた。偶然にも人数が割り切れたことで鬼ごっこスタート!
しばらくすると、ソラの「みんな集まってー」という声がする。近づいてみると、トウカが泣いていた。「誰かがどんって押してきたんだって」「押されてタッチされたんだって」とソラ、ユカリがあとから来た人たちに事情を説明していた。「タッチされたんじゃなくて押されたってこと?」「ドンってやられたの?」と、代るがわるトウカの周りに集まって表情を伺ったり、何があったのか尋ねている。
すると、ソラが走り出した。「どーんってこんな感じだった?」「トウカみてて!どどどどどどーんってこれくらいだった?」そう言って、ソラがトウカの前を走り抜ける。ハナはトウカの肩を叩いて「これくらい?(強さ)」と尋ねている。トウカが頷くと、ハナが「あぁ〜それ痛いね」と。ソラは実際に動いて身体を使い、ハナや周りの人たちもトウカの痛みを想像して自分のことのように感じようとしていた。トウカが「これくらいなら大丈夫」と言って実演してみる。それを見てまた遊びが再開した。
すると、今度は「なんでそっちまでいくの!」というハルキの声。グラウンドからランチテーブルの方に逃げていった人たちに向かって叫んでいる。アンナやユカリがその声を聞いて引き返してくる。ハルキは、グラウンドの芝生が刈られている場所と、そうでない場所で境目ができているところを指して、「ここまでだよ」と言う。その様子をみて他の逃げも、鬼も集まってきた。「なんでハルキが決めるの」「あっちまで行ったっていいじゃん」といろいろな声が。ユカリ「ここまで(境目)だと狭いじゃん」アンナ「じゃあ、あの木のところまでは?(倒木が重なっているところ)」その提案にハルキも納得したようだった。これが共通のルールとなり遊びが再開した。
鬼ごっこのような集団遊びは毎回いろんなことが起きる。誰かが泣いている、誰かが怒っている、そのたびに遊びが止まりみんなで集まる。遊びよりも話し合っている時間の方がもしかしたら多いかもしれない。それぞれの気持ちに耳を傾けて、どうしていこうか考えることで、新しいルールができたり、お互いの気持ちを知ったり、折り合いをつけたりしながら、自分たちの心地良い着地点を探っているように感じた。