2025年8月26日
「これを読んでワクワクしたら申し込んでください。」
風越学園ホームページのスタッフ採用ページ(2023年)に書いてあったワード。その言葉通り、僕の心はワクワクしていた。
「みんながつくり手」おもしろい!!
この学校なら楽しいことができそうだと希望を抱いて応募フォームをクリック。勢いよくクリックしたのはいいが、選考課題が結構ある…。しかも、風越学園のことやスタッフ採用のことを知ったのがギリギリで、〆切まで時間がない。ワクワクというエネルギーを糧に一気に選考課題を入力。ご縁あって2024年4月から学校づくりに参画(3,4年担当スタッフ)することになった。
振り返ると、ここ数年はいい意味でノリと勢いで人生を歩んできた。愛知から山梨(清里)を経て、北相木村への移住。そして、村役場職員からの転職。決断するまでの時間は数時間(笑)。直感ともいえるこの決断は、今となっては大きな意味をもっている。
ここからは、ワクワクからスタートした風越学園の日々を味わってみて、僕が感じた『風越の風土』、そして、『風越という風土の中で、現在担っているスポーツの時間(今回は3,4年生)について考えていること』を書き残してみたい。
ここでいう風土を【風越学園特有の環境や雰囲気、大切にされている考え方】と捉えると、個人的に次の4つの風土を感じている。
①子どもをど真ん中において物事が進んでいる。決して大人の都合や義務感(こうあるべきだ、〇〇すべき)などで物ごとが進まない。
②一人ひとりの気持ちを丁寧に受け取りながら、その人の「したい、ありたい」を大切にするかかわりがある。
③みんなで「どうなったらいい?どうあったらいい?」を考えながら日々過ごしている。
④大人の自分も居たいように居られる。自分らしく居ていいという安心感がある。
この風土⋯⋯⋯心地良き。
「なぜそう思うのか?」と問いかけてみた時、自分自身のここ数年間のモヤモヤが関係している気がする。これまで、“子どものため” と言いつつ、大人側の都合で話が進んでいったり、“こうあるべきだ!” という絶対的な正解があるかのように物ごとが決まっていったりする経験が結構あった。そこに疑問やモヤモヤを感じて生き辛くなっていた僕にとって、「みんなにとってどうすることがいいんだろう?」って時間をかけて考えつくっていく過程は、すごく心地が良い。
それを学校という場で、本気でつくろうとしている風越のチャレンジがステキだと思う。
朝のつどいでサークルをつくり、「今日はどうする?、今週はどうする?」から始まって、過ごしたいように過ごす。テーマプロジェクトでは、到達目標やプロジェクトの進捗状況、今日やることなどを全体で確認し、それぞれのチーム、時には個人で深めていく。ところどころ全体で時間をとって、プロジェクトの方向性やアウトプットの方法、みんなの取り組み具合を振り返って「どうする?どうしたい?どうしてほしい?」などを話していく。土台の学び(国語・算数)では、自分にできることは何かを考えながら子どもやスタッフとかかわる。授業後はミーティングや研修で、「今日・今までどうだった?これからどうしていく?」を話し合う。
そんな風越学園のつくる日々を繰り返しながら、自分自身の今までの経験で凝り固まっていた考え方や思考、観念が解きほぐされていく。心地良さを感じると同時に、僕が僕であるために必要なことがアップデートされていく感覚もあった。だから、そんな風土で過ごしている子どもたちは、自分というものをしっかりもっていて、創造性豊か。良くも悪くもいろいろなことが起きる環境で、自分らしくつくり手として存在しているように僕には映った。
採用ページを見て、ワクワクしていた風景が確かにそこにあるなと思えた。
と、ここまで書くと、風越学園が理想郷のように感じるかもしれない。だけど実際にやっていることは泥臭いことの連続。目の前で起こることが一筋縄ではいかなかったり、自分の思い描くように物ごとが進まないことにしんどくなったり…まぁ“いろいろある”。その“いろいろある”中で、スポーツの時間のことについての気づきや考えていることを以下にまとめてみた。
スポーツの時間を担当(3,4年生)してみて、スポーツをやるということが、風越の3,4年生の子たちにとって身体的・精神的にかなり負荷が高いものだということが分かった。それを感じたのは、初めてスポーツ鬼ごっこやセストボールをやった時だ。大まかなルールを伝え、実際にゲームを始めてみると、ゲーム中や休憩時に、多くの子どもたちが体育館からいなくなったり、離脱していったりする。
????????
僕の頭の中は「?」でいっぱい。「あれ?ど、ど、どうした?」という感じで、正直戸惑った…。ルールはそれほど難しくないし、運動負荷も普通くらい。誰でも楽しめるゲーム性の高い種目だと僕は思っていたからだ。
途中離脱する理由は様々で、疲れた、水が飲みたい、足が痛い、ルールが難しい、相手チームが強すぎる、つまらない、チームを変えてほしい…などなど、子どもたちは正直に伝えてくれる。しかし、僕には、伝えてくれた理由の他にも、
・辛いことはやりたくない
・走るのは疲れる
・負けるゲームはやりたくない(勝ちだけを味わいたい)
・ルールは都合よく変更すればいい
という気持ちや全体の雰囲気があるのではないかと、子どもたちの言動や表情から感じていた。その後も何度かゲームを繰り返してみたが、
・人が揃わず、なかなかゲームが始められない。
・点差が開き出すとあきらめムード全開で、ラフプレーが増える。
・ルールを無視したり、審判の判定に従わなかったりして公正公平なゲームにな らない。
ということが起きていた。そんな姿を目の当たりにして、チーム競技でなおかつゲーム性の高いスポーツは一旦やめておこうかとも思った。小学校のスポーツを担当するのが初めてだったこともあって、その後もみんなにとって、スポーツの時間がどんな時間になったらいいかを考え続け、頭の中はぐるぐる…。ぐるぐる考えた結果。僕が選択した道は、
身体的・精神的負荷を “あえて!!” 与える
ということだった。簡単に言うと、
ガンガン走って、ガンガンゲームをやる!!
ということ。なんじゃそりゃ?と思われるかもしれない。しかし、それが
あえて必要だ!!
と強く思ったのだ。
風越の子どもたちは、一人ひとりの気持ちが大切にされ、時にはそれを「やらない」という選択ができる。(前提として、その選択をするにあたって、スタッフと子ども、子どもたち同士のやりとりが丁寧に行われている。)ただ、スポーツの時間では、安易に「やらない」を選択することが増える現状がある。それは、単純に身体的負荷が高いことが理由なのかもしれない。さらに、負けることへの悔しさや思い通りにいかないという経験が、ゲームをやることで自分にのし掛かってきたり、チームで協力して課題解決をしていくことが必要になったりすることで、精神的負荷につながるのかもしれない。だけど、だからといって安易に「やらない」を選択することには「待った!!!!」をかけたい。
これは、僕の勝手な思い込みなのかもしれないが、風越という風土の中で、身体的・精神的負荷を感じる経験がものすごく必要なことだと感じている。
それは、創造性豊かで、自分をしっかりともっている風越の子どもたちが、自分ではどうしようもできない困難や辛いことに対峙した時、どのように向き合うかを考えたり、チームで協力してどうしたらいいかを考えて課題解決していく過程を経験したりすることが、より人としてのパワーアップにつながると思うからだ。別の表現をするとしたら、しなやかな竹のようになっていくイメージ。自分という根を地中に強固に張って成長していき、どんな強風が吹いてもその柔軟さ、しなやかさで倒れることなく乗り越える。そんなしなやかな竹のようになったら、一人のつくり手として、めちゃくちゃ頼もしい気がする。そんなしなやかな竹のようになる手助けが、スポーツの時間でできるのではないかと思った。
そう思うようになってから、僕はスポーツの時間だけ、少し強引な男になった。強引な男は、スポーツの時間を進めていく上で、以下の約束事や大事にしたいことを決めて子どもたちに手渡した。
◯絶対に守るべき<ルール>(ずるしない、ゲーム中のルール・審判の判定に従う、 暴力・暴言は禁止)を設定し、そこには全員が必ずコミットする。
◯ゲームにおいてのルールを明確にし、審判としても厳しく毅然とした態度で判定 する。
◯一度決めたチームは変えず、どんなに点差が開いて不利な状況になっても、最後 まで諦めずどうしたらいいかを個人・チームで考え続ける。
これらの約束事を授業の始まりで何度も確認した。
そうやってリスタートしたスポーツは、週一回ではもったいないと思うほど、アツい時間になっていった。もともと、普段から話し合う文化はあるし、自分の気持ちや思っていることはお互いにまっすぐに伝えられる子が多い。そんな根っこが育っている子どもたちだからこそチームスポーツへの順応が早い。
作戦タイムではすぐにサークルを作り、それぞれが思ったことを口にする。自然とその意見をまとめる子が出てきて、方向性が決まっていく。わずか2分たらずの作戦タイムがかなり充実した時間になっている。作戦が決まると一人ひとりの役割が生まれ、ゲーム中の動きが今までとは違う。視野が広がり、指示の声や反応の声が増える。ゲーム中も積極的にコミュニケーションをとるようになり、励ましの声が増えた。公立中学校で僕が何日もかけてめざしてきた姿が、風越ではほんの2、3回の授業でできあがる。本当にすごくて、見ていて鳥肌がたった。
この子たちが7,8,9年生になった時、スポーツの時間やアドベンチャーの時間はどんな時間になるのだろう?と思うと、今からすごく楽しみでワクワクする。だから、もう少しだけ、スポーツの時間限定の強引な男を継続してみようと思っている。
ここまで、風越の風土とスポーツの時間について自分なりの考えをつらつらと書き残してみた。書いてみて改めて思うことは、僕が今感じていることや実践が正解ではないし、そこに満足してはいけないということ。
こうしてみよう!!って今のところやっているだけで、今後「さらにより良く」つくり変えていきたいし、子どもたちと一緒にスポーツの時間をつくっていきたいとも思う。そして、今僕が感じていることや実践を一人のつくり手として大切にしてくれる、この風越の風土にも改めて感謝したい。
最後に、スポーツの時間で大切にしていることは、アドベンチャーの時間にも通ずるところがあると思う。自分の力ではどうしようもできない壮大な自然に身を任せ、自分がどうあるべきかを考えたり、そこに思い切ってチャレンジしたりする経験ができる。自分にとってもかけがえのない時間だ。風越学園でスポーツの時間とアドベンチャーの時間を担当させてもらえて、僕は本当に幸せだ。そして、風越と出会えたことにもありがとう。採用試験受けてよかった〜
島根の海を見て育ち、愛知の海沿いの町で社会人として貴重な経験をしてきました。現在は山に囲まれて信州ならではの暮らしを楽しんでいます。
「ワクワク」というフレーズが大好きです。これからも自分がワクワクする方向へと進んでいきたいと思います。