風越のいま 2024年5月17日

元「のらねこぐんだん」になった彼らの背中 

末永 真琳
投稿者 | 末永 真琳

2024年5月17日

昨年度のスタッフ振り返りの時間で一年間頑張ったことについて話をする時間があった。私はのらねこぐんだん(昨年度の年中グループ)と過ごした一年、自分が頑張ったこととして「頑なさを手放す」と言う言葉が思い浮かんだ。彼らの予想を超える行動はいつも、私自身の頑なさに出会わせてくれた。

のらねこの人たち、あいこさん(坂巻)、まりすというチームで過ごし、仲間の夢中にたくさん出会った。みんなで集う意味を問い続けた。「なんでやるの?」「やりたいことをやっていいんだよ」「自分で決めていいんだよ」「本当にそうなの?」「それでいいの?」とたくさんのやりとりを重ねた。それは体感的にも物理的にも長い時間であったし、夢中である友だちを待ち続け、待ってもらうことも経験した。のらねこの人たちにとって、本当にコミュニティーというものが必要なのかどうか分からなくなることも多かった。そうしたことが色濃く残る一年であった。きっとのらねこの人たちも同じように感じているのではないだろうか。

春が来て、元「のらねこぐんだん」は年長になった。彼らの日常は地続きではあるけれど、新しく季節がめぐり、昨年度とは暮らしの拠点が変わり、新しい年少さんという存在が現れた。今年度私は年少グループの担当ということもあり、幼稚園に来たばかりの人たちの目線で彼らと出会うことが増えた。そして、その目線で出会う彼らの夢中や何気なく話す言葉、しぐさ、間合いには、ここで過ごしてきた日々が感じられた。今回のかぜのーとでは、そうした年長の姿をいくつか紹介したいと思う。


「夢中を大事にする」

はじまりの日。朝の集いのベルがなる。

年長が「集いだよ〜」と声を掛ける。
まだよく分かっていない年少さんの手を繋いで、それぞれ集いの場所に案内している。

ままごとをしているスミレ(年少)ニヤニヤしながら水と土をトロトロになるまで混ぜていた。ツヅル(年長)が「集い始まるよ」と声をかけ、手を握ろうとする。しかし、お玉をもった手は鍋の方へ向かうばかりでなかなかつかめない。

何度かトライしようとするツヅル。しばらくして一度手を止め、スミレを眺める。ツヅル「どうしよう。夢中になっちゃってる。」夢中のスミレのタイミングをじっと待ってから手を握った。

「できるに寄り添う」

今日は年長が年少を森へ案内してくれて、一緒に探検へ出かける。ヒュウゴ(年少)は手押し車を押しながらみんなの列についていく。「どこ?どこ?」少し戸惑ったような表情で坂に差し掛かると、手押し車が下ろせずに戸惑っていた。

ヒュウゴ「こわい。こわい。」その姿にエイタ(年長)が気づく。「やってあげるよー」と手押し車を押して、坂をガラガラと下る。

ヒュウゴは笑顔になり、またゆっくりゆっくり歩みを進める。その間、みんなは見えないところまで進んでいた。しばらく進むと細い丸太が転がっていて、また通ることができない。

ヒュウゴ「行けない。車で行きたい。」手押し車をもっていきたい様子。困って立ち止まっていると、上着を取りに来たミア(年長)が話しかける。ミア「どうしたの?ここは渡れないから車は置いていこうね。後で取りに来れるからね。」そして、「一緒に行く?」と手を差し出す。

ヒュウゴはニコッと笑顔になった。

ミアの手を握り返す。そこからミアの励ましのもと、一歩一歩進んでいくヒュウゴ。ミア「できてるよ。もう少しだよ。」急な坂道も踏ん張って登る。ヒュウゴ「できる?できる?」ワクワクした表情に変わっていく。坂を登りきると風がひゅーっと吹く。ヒュウゴ「広いねー。」

ミアと二人、最後尾でゆっくり、じっくり森のものと出会いながらみんなのあとを追う。

ミア「見て見て、こんなところにお花が咲いているよ。」

「話し合う」

サッカーが始まった。年長のコウタ、タイセイ、コウスケがチームを分けようと話し合いを始める。

「グッパーで決めよう」「それは嫌」「じゃあどう決めるの」などとずいぶんと長い。20分以上は経過している。その間、一緒に座り込んで聞いているタキ(年中)、じっと話し合いの様子を眺めているユウホ(年少)。

話し合いの末、コウタ「ユウホはこっちチームでもいい?」頷くユウホ。

「大事なことを伝える」

年少のメイ、レイ、エルナ、ロク、ユウホ、レイナで森の入口で遊んでいると、コウスケ(年長)が「案内しようか?」と年長が家を作っている場所に連れて行ってくれる。

森を進むとひらけている場所があり、森の奥へダーッと走っていく年少たち。すると、カイト(年長)「おーい危ないよ!」と大きな声を出した。立ち止まる年少。コウスケ「ちょっと待ったほうが良い!熊もいるし。」ケンジ(年長)「ちょっとストップ!これ以上先は危険だから行かないようにね。」

カイトが走って近寄り、倒れた木の前で話し始めた。カイト「見て、この木はね、台風の時に倒れちゃったんだ。根っこからボキッと折れているでしょ?だからこのまま森に入るのは危ないんだよ。」

静かに聞いている年少。しばらくすると、レイナ「帽子被っていれば大丈夫?」レイ「台風って軽井沢に来た台風?」エルナ「知ってる!」と話し始めた。

ケンジも走って近寄り、「みんなが見えるところで遊びな。迷子になるよ。俺たちがいる近くにしておきな。」と声を掛ける。

真剣に台風のことを話すカイト

「アイコンタクト」

探検へ出た帰りの道。メイ(年少)は帰り道がわからなくなり「どっちだろう」と逆方向に進みはじめる。その様子を少し遠くから見ていたリリ(年長)。リリ「そっちじゃないよ、こっちこっち。」

あたりを見回す年少の姿を見て、手を握ってリリの方まで連れていく、年長のヒナノとアル。ヒナノ「こっちだからね。」アル「ほら。」と背中に手を回す。リリの方へ年少が行くと、ふたりは目を合わせて微笑む。

「没頭する」

昨年から絶妙な加減で泥団子をつくっていたミワ(年長)。この日も朝から新芽やコブシの花びらを拾って、小さな泥団子にちょこんと乗せて、次々とお皿の上に並べていく。

ミワが一つ一つ手の上で、指先をつかって小さな泥団子をつくりあげていく様を、声もださずにじっと見ている、年少のキノ、ロク、アキ。

お皿に並べられた6つの小さなお団子を覗き込む

「自分でやってみる」

年少が探検に出かけて帰って来る道中。レイナ(年少)はリュックが重くて持てずにしゃがみこんでいた。近くで四つ葉のクローバーを探していたトイ(年長)。トイ「見て!よつばのクローバー見つけた!」レイナの腰が上がる。

レイナ「私も見つけたい!」と興味津々だが、荷物のこともあり葛藤。するとトイが「もってあげようか?」と気にかける。レイナのリュックが地面につかないように片側だけ持つのを手伝った。

するとナナコ(年長)もやってくる。ナナコ「あーこれ重いよね。こうやってみるのはどう?」とリュックを背負ってみせた。ナナコの荷物をかわりに持つセン(年長)。見守るトイ。

レイナはそれを見てやってみる。一人でやってみたレイナを見て、ナナコ「もう大丈夫かな?」と離れようとする。レイナのカバンが地面につきそうになると、ナナコ「集いのところまで行こうか」とリュックの片側を持った。

なんとか辿り着くと、レイナは「ありがとう」と言った。年長たちは微笑みながら、誇らしげに自分たちの集いの場へと走っていった。

レイナのリュックを背負って見せるナナコ

「待っている時間」

朝の集い。みんなが集まるまで待っている時間。

早く来ていた年長のケンジ、モンド、カナトは早く集まった年少のレイナ、レイ、ナツキ、キノ、スナオに「ネコチームはどこですか♪」と歌を歌う。「ここです♪ここです♪」と答える年少。ニコニコしながらやり取りが続く時間が流れる。

集いの前の様子


ネコちゃんチーム(年少)は元のらねこ(年長)の姿を何も言わずに眺めていることがある。話し合う彼らのそばで時が止まったように眺めていることがある。

きっと、肌で受けとっていることがたくさんあったのだろう。彼らを見て、空気に触れて、学んでいることがたくさんあるのだろう。時には不思議そうに、時には圧倒されるように、時には目を丸くして眺めているネコちゃんチームは、きっとこの一年、自分よりも大きな人たちの姿を見て育ってゆく。

年少の目線で出会う元のらねこぐんだん(年長)はこの場所に安心感をもたらしてくれる。きっとこの場所でたくさんの葛藤を経験して、自分で一つずつ掴んでいった彼らが見せてくれる世界があるからだろう。

そして年長になった彼らも、大きな声で涙を流す年少の姿を見て、立ち尽くしている場面にも多々出会う。様々な場面でかつてはそうであった自分と、自分よりも幼い人たちの姿を重ねて、「わたし大きくなった」と感じているのではないだろうか。

元のらねこぐんだん一年間ありがとう。そしてこれからもよろしく。

#2024 #幼児

末永 真琳

投稿者末永 真琳

投稿者末永 真琳

長野県出身。歌って踊って絵をかいて、いろ、おと、ひかりの世界を表現することが好きです。子どもたちと身体でたくさんのことを感じながら、森と暮らす日々をおもいきり楽しみます。

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