2023年12月26日
風越にくれば、特別支援に関する色々なことが解決すると思っていたが、そううまくはいかないということを味わったり、風越における個別支援とはなんだろう?と考え込む日々を過ごしているけれど、ここにヒントがあるかもしれない!と思ったことを書き留めておきたい。
「Aちゃんは、2つの感覚を合わせると集中できるようです。例えば、課題に取り組みながら、鼻歌を歌っている時が集中できている時です」と話す心理士さんの話を「そうなんですね。わかりました!」とあっさり受け止めている自分に気がついた時、ちょっと驚いた。
というのも、前職の「ことばの教室」にも「教室で、大きな独り言を言ってしまう子」や「授業中どうしてもお尻がソワソワして動き回ってしまう子」が通っていて、私は個別が中心のその時間では、立ち歩きも、おしゃべりも楽しみながら学習していたのだけれど、その裏には「ここで思う存分発散して、教室では我慢しようね」という思いがあったように思う。つまり、当時の私は子どもとの“秘密のリラックスタイム”として、それをOKとしていたのだ。
風越で、鼻歌を歌っていたり椅子に座れない子がいた場合、周りから「うるさい」と言われることや、「今は椅子に座ろう!」とスタッフに声をかけられる場面はあるかもしれないが、そうすることで本人が学べているならば、頭からダメと否定されず、尊重される土壌ができていると感じる。もちろん、どの程度何をOKとするのかは、私を含め日々一人ひとりのスタッフが葛藤もしているが、動くことや話すことを保障した上で、周りに影響を与えすぎない塩梅を学んでいくことができる環境は、一人の子どもの学びの可能性を拡げる大きな柱になると思う。
また別の時、病院のDr.が「Bさんが集中できるように、衝立があるといいかもしれないですね」と言った。それを聞いて、「きっとその方がいいけれど、Bは人と違うとなると選びにくいみたいなんです」と話す私の横で、あすこまさん(澤田)が「衝立があれば集中できる人は他にもたくさんいると思うから、誰でも使えるようにできるといいですよね。Bだけじゃなくて、使いたい人がみんな使えればいい」と軽々と言った。
そして、あっという間に導入された衝立とイヤーマフ。イヤーマフは、全校が集まるかざこしミーティングの場で、一人の中学生がつけているのを見て、「あれ、私も使ってみたい」という子どもたちが続々と現れた。あっという間に貸出用のイヤーマフは10個全てはけてしまった。
もちろん使ってみて「耳が詰まっているみたいで気持ち悪い」という子もいるけれど、「マイクの音がうるさくて苦しかったけど、これなら場にいられる!」という子もいて、授業中も使っている姿を見るようになった。空前の“イヤマフブーム”の到来であった。
数ヶ月経ち、学校全体のブームは去ったものの、今でも「イヤマフ貸してください」と言いに来る子どもが数人いる。
結局、導入するきっかけとなったBは、衝立もイヤーマフも使っていないけど、色んな子どもの快適さが生まれたのは、Bの(そして、あすこまさんの!)おかげだった。いつかBが使いたいと思う時が来たら、その時は「人と違うから使いたくない」ということはなく、当たり前に手に取れる環境になっていると想像すると嬉しくなる。
先日のアウトプットデイのクロージングでは、司会の子どもたちが「みんなが参加できるようにしたい」と思いを伝え、「書くことが苦手な子が、活動に参加できないということがないようにしたいなーと思って考えました」と、説明している姿があった。
紙コップのオーナメントに、この先やってみたくなったことを書く活動だったのだけれど、「文字で書いても、絵で描いてもいいです」と、写真で例が示される。最後にまた「書くのが苦手な子は、周りの子に書いてもらうのも良いと思います」と付け加えられた。これらの活動の工夫や声掛けは、小さな学年の子たちにも参加してもらいたいという思いから生まれたものだったのかもしれない。けれど、学年は関係なく文字で書くことや表現することが苦手な子にとっても、参加しやすくなる仕掛けになっていた。出来上がったオーナメントを見てみると、年齢問わず、絵で表現する子も、文字で表現する子も、周りの人に書いてもらう子もいて色とりどりに仕上がっていた。
「合理的配慮」や「特別支援」と聞くと身構えてしまいそうになるかもしれないけれど、今回あげた風越で起きていることのように、一人の心地よさを考えることは、誰かの心地よさにつながるし、多様な選択肢があることは、隣の人に寛容な文化をつくっていくと実感している。特別支援を特別なものと考えるのではなく、日常の当たり前に変えていく。時間はかかるかもしれないけれど、そのことが結果的に、多様な子が学べる場づくりにつながっていくのかもしれないと感じている。
散歩や自転車で探検する事が好きです。これまでは「ことばの教室」で個別の支援を中心に子どもたちと関わってきました。子どもや保護者の皆さんとじっくりお話しして、ひとりひとりの良いところや面白いところを発見することのできる時間が大好きでした。これからの出会いも楽しみです!
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