2019年11月27日
北風が木の葉を吹きはらい、浅間山に積雪が見られるようになりました。これから厳しい冬がはじまりますが、眩しいほどに光が差し込む森と透明感のある青空は、さらに厳しくなる寒ささえも楽しみに思わせてくれます。
すっかり葉が落ち、枯れ木のような森の木々を見上げていると、ミズナラの木の上に巨大な鳥の巣のようなものが。
「恐竜?」「キジの巣?」「トンビじゃない?」「シジュウカラの大家族?」
不思議が溢れ出した子どもたちは、かぜあそびで見かける生き物や知識をヒントに推理していきます。その姿はまるで、森の名探偵。
でも答えは、どれもハズレ。巨大な巣のようなものは、「クマだな」と言われるクマが食事をした痕です。まだ木の上にドングリが実っているころ、ツキノワグマは木のてっぺん近くまで登り、枝を折ってドングリを食べます。食べ終わった枝をお尻の周りに捨てていくので、巣のようになるのです。
葉が残っている時期には見つけられなかった「クマだな」。あっちの木にも、こっちの木にも。冬になると現れるクマがそこにいた証拠。私たちはクマと同じフィールドで生きているのだなと気付かされます。
さて、日本では古くから、自然の移ろいを細やかに感じ取り、「二十四節気」と「七十二候」で感性豊かに言い表してきました。この時期は、大雪(新暦12月上旬)の第六十二候(12月12日〜16日ごろ)「熊蟄穴(くまあなにこもる)」と言います。そう、ここにも「クマ」が出てくるのです。
山に食べ物が少なくなる今時分になると、軽井沢に棲むツキノワグマは(以下、クマ)冬ごもりに入ります。(ヘビやコウモリのように)身体機能を完全に休める「冬眠」ではなく、ウトウトと眠っている程度の浅い眠り。秋に溜め込んだ脂肪をエネルギー源に、体温や心拍数、呼吸数を減らし、エネルギーの消費を最小限に抑えて春まで眠ります。その間は、飲まず食わず、糞や尿などの排泄物もしない。毛皮の下に蓄えた脂肪を、水と二酸化炭素に分解して、そこから必要な水分を得る。クマの体には、「リサイクルシステム」が備わっているそうです。
また、冬ごもり中に行われるクマの出産も、秋の実りと密接な関係があります。クマは夏に交尾をしますが、受精卵が子宮に着床するのは秋に十分な脂肪が蓄えられた時だけ。出産・授乳できるだけのエネルギーを蓄えられた時のみ、出産する仕組みをもっているのです。春が来るまで、母グマは蓄えたエネルギーだけで穴の中で授乳し子育てする訳ですから、それは大仕事でしょう。
前述の「クマだな」ですが、よく見ると全部のミズナラの木に登っているわけではないことに気がつきます。絵本『どんぐりかいぎ』(こうやすすむ文/片山健絵)に、森の木々たちが、ドングリを動物たちに食べ尽くされないように相談する場面が描かれていますが、実際の森でも、餌となるドングリの量が変化することで、生態系を構成する生き物たちのバランスが崩れないようになっているのです。人間には一様に実っているように見えるドングリですが、実はバラツキがあり、ツキノワグマは食べごろや成りごろを見極めて選りすぐっているのかもしれません。
森の食料事情に合わせて、暮らしを変える。
野生の生き物たちは、いつだって自然と共に、自然に逆らわずに生きているのですね。
参考文献
『どんぐりかいぎ』 こうやすすむ 文/片山健 絵
『山のごちそう どんぐりの木』 ゆのきようこ 文/川上和生 絵
生き物たちのドラマに魅せられて、軽井沢で森のガイドを15年。子どもたちと自然を見続けたくて軽井沢風越学園へ。学園の森の保全しながら、子どもたちと自然の不思議や面白さを見つけていきたい。幼少期は、近所で評判のお転婆娘。実は、冒険や探険に誰よりも心躍らせている。
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