2025年7月15日
幼稚園の園だより「こどものじかん」より、「田畑ごよみ」として綴っているコラムをまとめてお届けします。
学園の畑の石を拾ったり草取りをしたり、作物を植える準備をしている子どもたち。そうだ、羊のうんちをもらいに田んぼへ行こう!と年中と年長さんが追分の田んぼへ行きました。
追分宿から田んぼへ向かう道すがら、用水路沿いの道を歩いてよもぎやつくしを見つけては「明日のスープに入れよう!」「たんぽぽは羊さんにあげよう。」と手にはお土産がいっぱい。田んぼでは6頭の羊がメエ〜とみんながくれる草を美味しそうに食べていました。
このうち一頭の母羊はお腹が大きく、21日月曜に行った年中さんは大きくなったおっぱいを見ながら「いつ生まれるのかなあ」。そして翌日22日の早朝に双子の子羊が産まれて、その日に田んぼへ行った年長さんは、なんと生まれたての子羊を見ることが出来ました。お母さん羊をびっくりさせないように静かに見てあげようねと話すと、ハルキ「忍者になって行こう」みんなで抜き足差し足でそーっと静かに見学。
うんちを積み上げた堆肥の山から「いい土になるようにうんちくださいな」とシャベルで掘ってバケツに、うんちと出てくるたくさんのミミズを学園の畑へもらってきました。この日はお米作りの始まりで田んぼへ水を入れる仕事をしたり、カエル探しに水遊び。仕事や遊びを通していつもとは違う友だちと出会ったり様々な生命を見つけたりと、田んぼでは新たな出会いがあります。次の仕事はお米の種まき、いよいよ一年通じてのお米作りが始まります。
田んぼでは、泥んこ代かきをしていよいよ田植えの時期となりました。「米」という漢字は、米作りの過程に八十八の手順があることを示しているといわれています。
田植えの手前の代かきは一見泥遊びをしているように見えますが、子どもたちの足で泥をかき混ぜて柔らかくして苗を植えやすくすることと、田んぼの床と呼ばれる石の層の隙間に泥が入って水を抜けにくくする大事な仕事です。代かきの最後には昔は馬や牛が引いていた重たい土を均す道具を子どもたちが引っ張って、田植えで植えやすいように均一に水が廻るように田んぼ全体を平らにならしてとうとう田植えです。
田んぼの仕事をする子どもたちは、その身体全部で感じたり浸ったり色んな感覚に出会っています。声を拾ってみると…田んぼの水あったかーい、あれ?こっちは冷たい、泥がむにゅっとする、足の裏がムニムニしちゃう、下に石みたいのがゴツゴツ、あ、カエル!ギュっとすると痛いからねそーっとね、カエルってプクプクしてる、アメンボはヒューって速いから掴めない、羊のうんちはポロポロ出てくる、新しいうんちはピカピカ!羊の頭はふわっふわ!あー風!ほんとに気持ちいいなあ〜浅間山が喜んでるみたい…。
特に代かきの日は全身で土と出会い泥に浸っていますが、身体全部であったかーい、むにゅっとするー、とその感触に触れながら面白さを仲間と共有して、みんなで仕事として頑張ることも田んぼの醍醐味だなあと感じます。でも泥んこになるのちょっと嫌だなあ…という人の気持ちもよくわかる。だからこそ自分でやりたくなる、やってみよう、と思えるまで待っていてあげたい。自分で踏み出した一歩はきっとその後の自信や力になると思うから。
チーム「め」は代かきの最後に泥んこ綱引き、29日には4列の田植えが出来ました。チーム「こ」は6月2日に田植え予定です。おいしいお米を作る仕事の第一歩、がんばろうね。
畑に植えたとうもろこしやトマトはひと雨ごとにぐっと背丈を伸ばし、田んぼのお米の赤ちゃんも青々とした葉を広げ始めました。
学園では幼稚園から9年生まで畑で色々な作物を育てている人がいます。畑で作物がよく育たないのは土の栄養が足りないから?と、ミミズコンポストで生ゴミを分解したり、馬のラッキーの糞をいい土にする堆肥小屋を建てているお兄さんたちもいます。
東の森で遊んでいたジョウとアキト、ユウホが落ち葉の中にいるミミズや幼虫を掘っている場面がありました。
ジョウ「ミミズはこのお鍋に入れて。集めてるから」
アキト「幼虫は土に入れておく」
どうして?と聞くと、
ユウホ「ミミズはいい土にしてくれるから、ウンチして」
ジョウ「だからコンポストに入れるの、いい土になるように」
見ると畑の横にあるタイヤの中に落ち葉とミミズが入っていて、そこへお鍋のミミズを運んでいます。
ジョウ「このタイヤでコンポストごっこしてるんだー」
・・・コンポストごっこ!?
それを見ていた年少さんたちは、次々タイヤのところへ来てはミミズを触ったり掘り出したり。ヒロはミミズをつまみ出しては自分の手押し車に集めています。ナツは掘ったミミズを握りしめています。アキト「ミミズ出さないでー、飼ってるんだから」その声は聞こえていてもヒロとナツは黙って集め続けています。ユウホ「んもうー仕方ないなあ。あとで全部戻しといてよ!」ジョウ「いい土にしてくれるんだから」
年少さんや年中さんたちは、いま森で出会う虫や生き物への好奇心や興味で身体が動きまず触ってみたり集めたり。葉っぱに群がるイモムシもお家にもって帰る!と袋に集める人もいます。それを見ている年長さんたちは「かわいそうだから森へ逃してあげて」とか「ミミズはいい土にしてくれるから土に入れてね」と一見正しいことを主張しているように見えます。
でもそれぞれ年齢なりの理解やその子なりの興味には幅があり違いがあるもので、まずは好奇心からたくさん触れてみる集めてみることから始めてそれをじーっと観察し、その過程で力加減がまだ分からず握り潰してしまったり感触を確かめながら踏みつぶしたりすることもあります。それでも生きているものの手触りや温度、動きや小さな息遣いに少しずつ気づいて、手にする加減もわかっていくようです。
田んぼでもビニール袋に10匹20匹とカエルを集めている子につい「田んぼの虫を食べてくれる大事な仲間なんだ。カエルの気持ちになってみてくれる?」と声をかけてしまってから、集めてまずはじっくり観察していたところだったかな、潰さないように捕まえては手触りを味わっていたのかも、はたして今の声かけは必要だっただろうか…と振り返ることも度々です。
ミミズを捕まえたり集めたり、そしてじっくり出会っているコンポストごっこ周りの子どもたちは、ミミズを手にしてその身体で何を感じ、どんなことを捉えているんだろう。時々いじりすぎて千切れたりしているけれど「生命だから大事にして」みたいな大人の勝手な価値観で声をかけることは果たして必要なのか、その子が生き物との出会いの時間のなかで身体のなかに様々な感覚を積み重ねていくことがこの先どんなことにつながっていくのだろうか…。
その後、コンポストごっこのタイヤの中には、落っこちて泥だらけになったお弁当の卵焼きやスイカの皮なども混ぜ込まれて、いつしか本当のミミズコンポストになりつつあります。
浅間山の麓に来て20年。たくさんの命に出会ってきました。淡々と生きる命、躍動する命、そして必ず限りある命。生きるって大変だけど面白い。そんな命が輝く瞬間を傍らで見ていたい。一緒に味わいたいです。
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