2023年10月26日
慶應義塾大学大学院の東山由依です。図書館・情報学専攻の博士課程に在籍しています。
軽井沢風越学園にはこれまで何度か訪問させていただき,今年の8月末から10月上旬までの6週間は,ライブラリーを中心としたフィールドワークに入らせていただきました。具体的には,みっちゃん(大作)のお仕事の様子を観察し,記録したことをもとに,司書教諭がどのように学校図書館(ライブラリー)を動かし,探究の学びを設計,実践しているのかを明らかにする,という観点から研究をしています。
学校図書館をマネジメント(運営・経営)する。カリキュラムに参画する司書教諭。それはどのようなことができる人で,何をしていて,どこで,誰と,どのように関わり,どのように「探究の学び」に伴走しているのか…今回は,6週間観察,記録をして,私なりに見えてきたことの一端を,みっちゃんが子どもたちにかけた言葉とともに記したいと思います。
5,6年生のテーマプロジェクト「タイムトラベル」での,あるインストラクションの最後,みっちゃんは「本と丁寧に出会ってきてほしいな」と子どもたちに声をかけました。
この日は,本の分類を知り,題名や目次をながめながら,自分が知りたい,掘り下げたいテーマの「過去」と「現在」につながる情報を「ピッケルポックル」する(探究スキルカードの一枚。自分に必要な複数の情報を一つずつ集める)ことが(いったんの)ゴール。自分のテーマに関する資料や情報を,分類という視点で見当をつけて探す方法について,ライブラリーの書架の仕組みとともに習得する,というものでした。
「情報・資料の探索と収集」は,情報活用のプロセスに位置づけられ,学校図書館の利用指導のひとつとして挙げられます。ただ,多くの場合,自分のテーマに関することが書かれた資料を「探す」とか,「検索する」とか,「見つける」という表現が使われます。そこをみっちゃんは「出会う」,しかも「丁寧に出会ってきて」と子どもたちに伝えていました。これにはどのような意味があるのでしょうか。
インストラクションを終えたみっちゃんは,「家」というテーマを選んだ3人のグループに伴走し,「題名だけだと,本当に自分が知りたいことが書かれているのかは分からないんだよ。それに,同じ「家」というテーマだけど,3人それぞれに関心は違うでしょう?」と言いながら,ヨーロッパの家,家ができるまで,モスク,家の素材,地震に強い家,図鑑まで,「家」にまつわる本を何冊も広げていきました。
すでに自分のテーマがあって,欲しい情報があったとします。それを探すときに陥りがちなのは,ただ1つの正解があるような気がして,1冊の本しか見ないこと。「検索」して,ヒット!と思える情報に飛びつくこと。大人も大人で,「それだったら〇〇にあるよ,△△を見てみなよ」と教えすぎてしまうこと。それは決して悪ではないですが,それだけだと,こぼれてしまうことがある。みっちゃんの言う「題名になくても,開いてみる」に現れているように,はじめから正解(ここでは,もともと欲しかった情報)にまっしぐらに向かうのもいいけれど,探索はもっと豊かで,じっくり発見していくことでもあるはずです。子どもの「知りたい」や「気になる」を邪魔せずに,待って,寄り添うと同時に,図書館的な学び,情報へのアクセスの仕方や探索のおもしろさ,キーワードが広がっていく感覚を子ども自身がつかむこと。これが「本と丁寧に出会う」の意図なのかなと思っています。
こちらも5,6年生のテーマプロジェクト「タイムトラベル」。この日は,OPAC(オンラインで利用可能なライブラリーの蔵書検索)での検索方法や出典の書き方を学びながら,集めた情報をまとめるツール(葉っぱの情報カード)を使って活動していました。
みっちゃんはいろんな子どもに声をかけながらも,「乗り物」「車」をテーマに選んだ1人の子どもに伴走します。
みっちゃんは,「乗り物って言っても,あるメーカーのデザインの「過去」をたどるのもあるし,事故を起こさない工夫もある。どういう切り口で展示をつくっていきたい?」と「乗り物」「車」からキーワードを広げようと,本を見せながら投げかけます。その後も「環境問題とか地球温暖化という切り口からエコカーという視点もあるよね。あとは毎年新しい車を展示して新作とかを紹介するモーターショーとか。どう,何か気になるものある?あとは,道路標識の過去にさかのぼるとか…」
ここまでは,「車」を出発点にして,本とともに子どもの大事にしたいキーワードを慎重に丁寧に探っているように見えました。ですが,続きがあります。
「道路標識の過去にさかのぼるとか…でも,やりたくないんじゃないの?車,好きだっけ?」
みっちゃんは,その子の興味を見抜いていました。ひょっとしたら,伴走するよりもずっと前から気づいていたのかもしれません(私はそう思っています)。でもまずは,その子がやりたいと言っていた(思っていた)「車」というキーワードから,考えうるテーマの派生,上位概念・下位概念の操作,本の探索といった,司書教諭としてできる手立てをもって伴走をする。でも,ただそこに伴走をするだけでなく,本来その子が興味のあるもの(戦国武将,日本の偉人など)について会話をしながらライブラリーを巡ることもしていました。
この子がこのまま「車」で活動を進めていたら。好きじゃないテーマでテーマプロジェクトをしていたら。情報にうまいことたどりつけたかもしれませんが,やりたくないのにやっている状況になっていたかもしれません。そこをみっちゃんは掬い出していました。子どもの育ちや学び,興味関心を理解しているかがこういうところでも発露するのかと,純粋に驚いてしまいました。
毎週水曜日のマイプロジェクトはホームで計画とふりかえりをしています。この日は半年に一度のふりかえりの日。ある1人のワークシートを前に手が止まっている子にすっと入っていったみっちゃんは,「マイプロで大事にしたい6つの視点」(五体,五感,深まり,広がり,新たな発見,マジか!)を見せながら,「今日は身体使った?」などと問いかけたり,過去のワークシートに書かれている活動を参照したりして,子どもの活動に継続性があることを意識づけながらふりかえりをしていきます。
続けて,これからどうしたいか?を考えるとき,「サッカー(プロジェクト)は続ける?うんうん。あと今日,上の子たちは日経ストックリーグで東京の企業にインタビュー行っている人もいて。そういうプロジェクトとかはどう?例えば鳥類の博物館とか,そういうところに調査に行ってとかさ。」子どもは「えっそんなことできるの?行っていいの?」と驚いているようでしたが,上級生の活動をちらっと見せて,子どものこれまでの活動や興味をマイプロジェクトに位置づけて,子どもの中で広がっていくきっかけを生み出すように声をかける姿が見られました。
以上の場面はみっちゃんの仕事のほんの一部に過ぎませんが,6週間を総括して見えてきたのは,自らを動ける司書教諭と称する,動くみっちゃんの姿でした。
みっちゃんはまず,「目の前の子どもの活動」を大事にしているように見えます。その場にいる子どものありのままを見て,子どものニーズに応えます。しかしそれだけで終わることはなく,「この活動のあと,どうなっていたいかな」と,常にその先の子どもの姿まで見据え,ときにはその像をスタッフと共有して,考えながら伴走して,発見や気づき,学びを掘り起こしていました。しかもそれは教室で,書架で,オフィスで,床の上で…。どこでも,いつでも「探究の学び」が湧き,繰り広げられていました。
私が図書館のことを学んでいたとき,よく「司書は本と利用者をつなぐ人」と聞いていました。そして,学校図書館員は,子どものことを知り,発達段階にあわせた資料を豊富にそろえて提供して,カリキュラムを理解して,教員とも連携して「教育的な視点をもった,つなぐ人」ではないでしょうか(もっとあるでしょうが)。そのように理解したときに,「つなぐ人」はどのようにつなぐのか,そのメカニズムを知りたくなってきます。
風越でのフィールドワークを終え,現時点での私の理解では,まず,ひとつひとつの活動を知り,場の子どもの姿を【点】で理解する(何が起きていたかを知る)。そして,集まった【点】を,時系列に並べたり,土台の学びやプロジェクトの場面同士でつなげたりして【線】にする(いつ,どのように,どんな場面でその活動が起きたのかを知る)。さらに,そういう【点】や【線】を交差させたり【形】にしたり,ときに周りと共有したりして,子どもと周りを取り巻くリソースをいろんな面から理解して,変容させていくーーそういうくりかえしが,「つなぐ」なのかなと考えています。そしてそれをみっちゃんは日々実践して,動きながら少しずつ,でも確実に築いているように見えました。
6週間の滞在中,「みっちゃーん!」の声を聞かなかった日はありません。その声が聞こえるところに,みっちゃんはどこへでも伴走するはずです。場にいる子どもと,問いと,活動と,資料と,未来を結びつけて,メタに学校をみる人…司書教諭が,学校図書館が,「探究」に参画する意義は大いにありそうです。
私の研究はまだまだ途上です。これからも自分の問いをだいじに,「探究」していきたいと思います。
書き手:
慶應義塾大学大学院 図書館・情報学専攻博士課程 東山由依