風越 参観記 2020年11月6日

「かざこしミーティング」見聞録(青木 将幸)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2020年11月6日

朝、軽井沢風越学園(以下、かざこし)につくと、登校したての子どもたちが集まっていた。秋は深まり、紅葉も始まり、けっこう気温も下がっているというに、すでに上着を脱ぎ捨てて、サッカーをしたり、鬼ごっこをしていた。「今朝は、みんなで、かざこしミーティングの日だよ」と誰かが教えてくれた。おぉ!ラッキーだ。僕は、かざこしの子どもたちが、どんな風に話しあっているのかを見たくて軽井沢までやってきたのだ。

僕の名前は、青木マーキー。兵庫県の淡路島に住んでいて、ミーティング・ファシリテーターという仕事をしている。ようは、会議の進行役だね。家族会議から国際会議まで、いろんなサイズの会議や話し合いを進めている。コロナになってからは、オンライン会議が増えたけど、最近ぼちぼち「リアル会議」も復活してきた。

この日は午後から、風越学園の理事会・評議員会というのがあって、その進行をするためにやってきた(僕自身も評議員をつとめています)。でも、僕はまだ、子どもが生活しているかざこしを見ていなかったので、前日入りして、朝の登校風景を楽しみにしていた。かざこしの1日は、どうはじまるんだろう?

朝、はじまりの時間が好きだ。会社でも学校でも、朝、どのようにはじまるかで、1日が決まる。はじまりの時間は、その組織らしさを象徴する。

次々と登校してくる子どもたちは、互いに挨拶したり、さっそく遊んだり、校庭の芝を抜いて乱暴にぶつけあったり、1日ぶりの再会を喜んで抱きあったりしていた。時間になると、スタッフの誰かがアナウンスした。「ホームごとに集まって話そうか」。すると、いくつかのサークルができて、めいめいに過ごしはじめた。かざこしでは、学年ごとの「クラス」ではなく異年齢の「ホーム」という20人ぐらいの固まりが10個ある。

朝の会はホームごとに、個性的だった。僕の目の前のグループは、ハンカチ落としをやっていた。その隣のホームは、だるまさんが転んだをハイテンションに展開。幼児の子が薪をバトンにしたリレー遊びをしていたりもした。前日に保護者がだんだん風越の一環で、こしらえていた木製ベンチを使って、だらだらおしゃべりをしているホームもあった(僕も少しベンチづくりのお手伝いをしたので、早速使われて、とてもうれしい)。

ベンチを作って満足げな保護者&子どもたち

しばらくゆるっと遊びが続いたあとに「みんな、集まって」と声がかかった。スタッフのとっくんが全体の進行役らしい。

学校の全校集会って、どんなものをイメージするだろう? 整列も、小さく前にならえも、校長先生のあいさつも、生徒指導の先生の厳しい目つきも、全員そろった「おはようございます」の連呼も、かざこしにはなかった。

とっくんは「僕の声が聞こえる人は、手をふって。はーい、ありがとう。これから皆で<バナナ鬼>をしようと思うんだけど」と提案した。 えっ、なにそれ? と、僕はぽかんとした。いつのまにか僕の膝の上に座っていた幼児が「タッチされたらバナナになる鬼ごっこだよ〜」と教えてくれた。

「えーっと、バナナ鬼のルールを知らない人もいるかもなので、簡単に説明しますね。今からくじをひきます。くじであたったホームの子たちには、鬼をやってもらいます。目印にビブスを着てね。で、鬼にタッチされた人はこうやって、両手を上にかかげてバナナのカタチになってその場で立ち尽くしてください。鬼以外の誰かが1回タッチしてくれたら、片手をおろし、もう1回だれかがタッチしてくれたら、両手をおろせて、自由になれます。わかったかな?」

僕はこれまでの人生でバナナ鬼をしたことがなかったので、ふむふむと頷いてゲームに参加した。ビブスを着た子ども集団が野に放たれる。全校生徒とスタッフが入り交じる約230人の壮絶な鬼ごっこの始まりだ。

うぎゃーーーー、またバナナになったー!誰か助けてーーー! おーー!助かった。あああ、でもまたやられた! ちくしょう、まちぶせとは卑怯だぞ! なかなかバナナから脱出できないじゃないかぁ! の無限ループ。

20分ほどたったろうか。ぜーぜー、はーはー走り回って、230人は完全に入り交じっていた。かいた汗が、冷たい秋風に心地よい。

バナナ鬼でビブスをかぶった嬉しそうな子鬼においかけられるの図

「では、もう一回集まろうか。かざこしミーティングをしようと思います。テーマはかざこしの<生活>です。もう一度ホームごとに集まって座ってくれるかな」と促される。いまから30分ほどで、かざこしで生活していて、気になること、感じてることを話しませんか? という提案がなされ、ホームごとに3人1組で話し始めたりしている。

僕もまぜてもらって、ある男子の話を聞いた。「最近、かざこしでの生活はどうなの?」「楽しいよ」「そう、楽しいかい。どんなことしている時間が楽しい?」「遊んでるとき」「おー、最近は何遊びしてるの?」そんな会話だ。

「困ってることとか、ちょっとイヤなことなんかは、ないの?」「ないよ」と即答。すげーな、それ。でも、少し粘って、じっくり聞いてみると、いくつか出てきたりもする。

「あのね、トイレがきたない。座ってするトイレしかなくて、男子用の立ちション便器がないの。でも、だれも座っておしっこなんかしないから、便座がおしっこで汚れていてきたないのが気になる」「おー、そうか、それは気になるなぁ」「しかも、手を洗わない子もいる」「えー、そうなの? それやばくない?」「きみは洗うの?」「えへへ、洗わない」みたいな会話が繰り広げられた。「うん、じゃあ、握手しよっか」「うわー、やめとく」とかいって、その子とは別れた。

別の男子は「暴言が気になる」と言っていた。「どういうこと?」って聞くと遊んでいる最中に「死ね」とか「馬鹿」とかという言葉が出てくるのが、気になる、と。「なるほどねぇ。マーキーも子どものころ言ってたなぁ、それ」「ダメじゃん」とか言われながら、10分ほどたって、スタッフに「また違う3人組で話してみよう」と提案された。

200人もいれば、テーマに乗れない子もでてくる。「なんでそんなこと話し合わないといけないんだ? めんどくせえ」という気持ちを露骨に出す子もいた。進行役のとっくんが「皆ともうちょっと話したいことを、A4の紙にマジックで書いてみようよ」という提案をした。いくつかのテーマが出現してゆく。

僕が見聞きした「立ちショントイレがない問題」や「暴言が気になる」に加えて、「キャンプがしたい」「修学旅行もしたい」「土台の学びをもっとしたい」「ランチの食べ方、これでいいのかな」「wifiのこと、インターネットのこと、クロームブックのことをもっと話したい」「片づけみなおしたい」といったテーマが見えてきた。

テーマごとに集まって話す

とっくんは「ちょっと歩いて、どんなテーマがあるか見てみて」「話してみたいテーマごとに集まって、話してみてほしい。でも、もう充分かな、自分はこれで終わっていいって思ったひとは、かざこしミーティングを終えて、創造のひろばに行ってね。そこにスタッフのアンディがいるから、振り返りをして、終了です」といって、場にすべてを投げた。

これは、なかなか思い切ったファシリテーションだ。多くのファシリテーターは、こうは手放せないと思う。終了予定時刻の10:30ごろになって、皆、広場から引き上げてゆくので、僕も創造のひろばに向かった。たくさんのポストイットが並んでいた。かざこしミーティングで、どんな風に感じたかを,皆、1枚づつ書いている。そして、大きなボードには、皆が出したテーマが貼られてゆく。

見事なファシリテーションを拝見して、僕は感服をした。進行役をつとめたとっくんに、その旨を伝えたら「もしも、マーキーが一カ所だけ変えるとしたら、今日の進行でどこを、どう変えますか?」と聞いてきた。なかなかしゃれた問いだな、と、ますますしびれた僕は、調子にのって、いくつかのファシリテーションの提案をした。

とっくんは、僕の話を丁寧に聞いてくれ、「うん、うん、なるほど、そうか、そういう手もあったね、うん、次回に活かします!」といってくれた。あぁ、いいスタッフがいるなぁ、そして、かざこしには、面白い話し合いの文化が根付きつつある。

これは、面白い。あまりに面白いので、僕も微力ながら、もっと一緒に伴走させてもらいたくなりました。「マーキー放題」というファシリテーターの使い放題プランを提案させてもらおうと、現在調整中です。かざこしの子どもたち、保護者さん、スタッフのみなさん、僕でよかったらどうぞ使ってください! じっくり話し合って、幸せな子ども時代をつくってゆこうよ。

#2020 #かざこしミーティング

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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