2017年6月14日
『西の魔女が死んだ』(梨木香歩、新潮社)
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私は、読むたびに毎回泣いてしまいます。
主人公は中学1年生の女の子、まい。
学校で思春期女子特有のグループ化についていけず、
クラスで仲間はずれになり、学校へ行かないという選択をします。
見かねた母は夏休みの間、田舎のおばちゃんの家に滞在をすすめます。
そのおばあちゃんはイギリス人、そして…魔女。
おばあちゃんのもとではじまった「魔女修行」で、
まいは少しずつ自分らしさを取り戻していきます。
さて「魔女修行」、どんなものだと思いますか?
それは…
1.早寝早起きをすること。7時に起きて23時には寝るようにする!
2.食事を3食しっかりとること
3.よく運動すること。掃除、洗濯など家事エクササイズをする!
何でも自分で決めて、最後までやりとげること
あたり前のようなことだけど、続けるのは難しい。
そして、自分で決めたことに自信を持てなかったまいにとっては、
この修行は自分を取り戻す大きなきっかけになっていきます。
と同時に、豊かな自然がまいの心を解放していきます。
新しい生活に踏み出す、自然の中に踏み出す、
それを支えるのは、おばあちゃんの無条件の愛情です。
「私はまいのような子が生まれてきたことを
本当に感謝しているんです。」
その子がどのような行動をしたとか、
どういう考えをしているか、そのことの是非を問うことなく、
その子自身をまるごと受容し、愛す。
ぜひ、お子さんと一緒にペア読書*1をして、おしゃべりしてほしいです。
ある事件を境に、おばあちゃんとの間に確執が生まれ、
まいはおばあちゃんのもとを離れます。後悔するのだけど…
その後の展開はナイショにしておきます。ぜひお子さんとお読みください。
「人はみんなしあわせになれるようにできているんです。」
書評はここまで。ここから私、KAIの探究がはじまる。
この本に感動しまくった私は、まず映画を観ました。
この映画、最高です。原作に非常に忠実につくってあるので、
ペア読書が終わった後にお子さんと観られるとよいと思います。
キンレンカのサンドイッチや、野苺のジャム、ハーブティーなど、
食べ物の場面は垂涎ものです。
文章より風景のイメージが強烈で、映像作品の良いところがうまく出ています。
おばあちゃん役のサチ・パーカー(シャーリー・マクレーンの娘で
日本でも数年暮らしたことがある方です)さんが、
素晴らしい演技をなさっています。都合5回観ました。
さて、この映画に出てくるおばあちゃんの家、
実はこれ、原作を元に設計図を引き、セットではなく、
実際に家を建てたのです。
場所は山梨県清里にあるキープ協会の森の中です。
ちょうど前々任校の移動教室*2が清里でしたので、
実地踏査の時に寄ってみました。これまた実に忠実で、
ジャムをつくったかまどや、室内の様子も文章通りなのでした。
テーブルの上にはまいとおばあちゃんのカップが置いてありました。
そして、玄関の下のほうには……これは言えない…。
移動教室のコースにも強引に入れ、ここは都合6回見に行きました。
(現在は内部の見学はできません)
この映画で、まい役を演じたのが高橋真悠さんという方です。
当時13歳、この作品がデビュー作です。
瑞々しい演技に私はすぐにファンになってしまいました。
公開後、将来を期待される大物女優の誕生かと騒がれましたが、
残念ながらその後の作品はありません。
どうしてだろうと思っていろいろ調べていくと、
真悠さんのブログが見つかりました。その中には、
芸能活動と学業や進路などに悩む女の子の姿がありました。
それが私には、まいの姿と重なってせつなかったです。
宮城の方なのですが、地方のプロダクションなので、大きな仕事もなく、
地方のアイドルのような活動を細々と続けていました。
東京の大学に進学し、女優の道も再挑戦すると宣言していたんですが、
しばらくしてからブログの記事は途絶えました。
今たぶん22歳、東京のどこかでシアワセに暮らしていることを願っています。
(ちなみに、ブログに何回かコメントしたんですが、
残念ながら返信はなかったです。くそー!)
さて本に戻ろう。この本のよさを子どもたちに伝えたくて、
教室の学級文庫に大量にとりそろえました。
そして、ブッククラブ*3も行いました。文量的にもちょうどよく、
何より高学年の子どもたちには状況設定もテーマもドンピシャです。
これは都合5回やりました。先生たちのブッククラブでも3回やったかな。
そのたびに泣いています。
梨木香歩さんの他の作品も、片っ端から読んでいきました。
梨木ワールドはどれも「ちょっとだけ」不思議な感じがします。
この「ちょっとだけ」が微妙に味がある気がします。
でも私の中では、この『西の魔女が死んだ』が一番好きです。
一冊の本から、どんどん広げて深めていくと、さらに新しい世界が広がります。
広げ深めていくナビゲーター役は、おうちの方の役かもしれませんね。
ぜひこの本を親子で楽しんでみてください。(映画もね)
『I know…』
*1 ペア読書…同じ本を2冊用意して、読んだことを交流し合う読書
*2 移動教室…宿泊を伴う行事や学習のこと
*3 ブッククラブ…同じ本を数人で読み、読んだことを交流し合う読書