2025年10月21日
幼稚園の園だより「こどものじかん」より、「めぐる森のお話」として綴っているコラムをまとめてお届けします。
コエゾセミやアブラゼミが鳴き始めるころ、虫かごの中をのぞき合ってニマニマしている子どもたちを見かけるようになります。虫かごの中には、カブトムシやクワガタが。積み上げられた虫かごと、昆虫ゼリーのカップが散らかった下駄箱周り。そして、カブトムシのことを聞きたくて、スタッフのG(水澤)を探す子どもたちの姿も夏の風物詩です。カブトムシ、クワガタを巡っては、毎年いろいろなやりとりが見られます。
カブトムシではありませんが、ホーム3の1-4年生プロジェクトでアマガエルを飼っていた時、アマガエルのケロッピを巡って、 「かわいそうだから放してあげた方がいい」という意見と、 「ぼくのケロッピだから逃がさない」という主張がぶつかったことがありました。半ば喧嘩になりかけた時、ある子が、 「でもさ、ここでケロッピは幸せなの?」と問いかけました。
「ぼくのもの」と主張していた子は、その問いかけに、 「ケロッピが幸せかと言われたら・・・」と言葉につまり、所有したい気持ちと葛藤している様子がありました。その後、 「でもさ、弱ったまま放すと、すぐに食べられてしまうのでは?」という意見も。子どもたちなりに、ケロッピがどう生きられると良いのか、この森で生まれた命について考えました。
自然の中で生きていたはずなのに、虫かごに入った途端、 「ぼくの!」と所有物になる心の変化。コレクション欲、観察、学び、癒し、様々な理由に合わせて、何を大切に考えるかも変わるので、関わり方や受け止め方に正解はなく、その都度、考えていくほかありません。 ( 「おれは誰のものにでもない!」とケロッピは訴えていたかもしれませんが。 )
森にたくさん落ちているクリやどんぐりなどの木の実。秋が過ぎるといつの間にか、数が減っていたり、なくなっていたりしませんか。
動物が食べているのだろうとは思っていましたが、森で野生動物に出会うことも、食べているその瞬間を見ることも難しく、きっとそうだろうという推測に過ぎませんでした。
数年前、誰がどんな風に食べているのかどうしても知りたくなり、風越の東の森にトレイルカメラを仕掛けてみました。
まず1台目のカメラは、獣道が何本も交わる森の交差点に。どんぐりを10個置いて、そこにやってくる動物が映るようにセットしてみました。1週間後にカメラを回収してみると、そこに残っていたドングリは3個。7個はどこにいってしまったのでしょう。早速、撮影された映像を確認してみると・・・。
ある日の朝6時ごろ、キツネが森の交差点をゆっくりと歩いて通り過ぎて行きました。このキツネはドングリには見向きもせず通り過ぎただけ。その後、お昼の12時ごろにカケスという鳥が、ドングリのところに何度も降りてきていました。1粒ずつドングリを嘴でくわえては、どこかに飛んでいき、またしばらくすると戻ってくるを繰り返していました。カメラのフレームから外れてしまうと映像では見ることができませんが、冬の食料として森のどこかに隠していたのかもしれません。カケスが行ってしまってからしばらく時間が過ぎ、今度は夜中1時頃、大きなオスジカがやって来ました。カメラの間近を歩いていたので、シカの角や体だけが大きく映っていて、ドングリを食べる様子は確認できませんでした。これらの映像から、ドングリが7個なくなっていたのは、どうやらカケスの仕業だと分かりました。
2台目のカメラは、グランドの奥の原っぱに。クリを山盛り置いて、カメラをセットしてみました。同じく1週間後にカメラを回収しに行ってみると、クリは全てなくなっていたのです。全て食べてしまったのか、全てどこかに運んでいったのか。「全て」というのが気になり、映像を確認してみると、そこには、夜中にクリを食べるシカの群れが写っていたのです。森の動物ならいくらか食べ残していきそうなのにと思いましたが、シカと分かって納得。”食べ尽くす”シカらしい食べ方です。
3台目のカメラは、幼稚園のランチテーブル近くにあるクリの木に。そこには、クリを食べるタヌキやネズミの姿が映っていました。
たった1週間の撮影ですので多くは分かりませんが、森の動物たちがどうやって木の実を食べているのか、動物たちの暮らしを一瞬だけ垣間見ることができたように思います。子どもたちの賑やかな声を聴きながら、夜がくるのを待っている動物たちがいるのですね。
きっと、もっといろいろな動物が木の実を食べに来ているはずですので、また森の謎を追いかけてみようと思います。
生き物たちのドラマに魅せられて、軽井沢で森のガイドを15年。子どもたちと自然を見続けたくて軽井沢風越学園へ。学園の森の保全しながら、子どもたちと自然の不思議や面白さを見つけていきたい。幼少期は、近所で評判のお転婆娘。実は、冒険や探険に誰よりも心躍らせている。
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