2025年7月15日
幼稚園の園だより「こどものじかん」より、「めぐる森のお話」として綴っているコラムをまとめてお届けします。
春の朝の光が感じられるようになった朝、「ケーンケーン!」とグラウンドの奥からキジの声が聴こえてきました。声の方に近づいてみると、キジのメスが草の間から慌てて飛び出してきました。そして、後を追うようにキジのオスが。さらに、もう一羽オスのキジが。その足の早いこと早いこと!(キジは飛ぶのは苦手ですが走るのは得意。なんと時速30Kmにも達するとか)
近くで見ていた私の気配にも気がつかないほど必死に駆けていく姿からは、熱いメスへの求愛と2羽のオスによる白熱した戦いが伝わってきました。また別の日には、「ケーンケーン」の声に続いて、翼で胸をたたいてバサバサと音を立てる「ほろうち」も聞こえてきました。
軽井沢の春は、冬の間眠っていた植物たちが一気に芽吹き、森や山が淡い色で彩られていきます。そして、響き渡る鳥のさえずり。さえずりは求愛と縄張り宣言の意味があります。それぞれが命をかけてパートナーを探し、新しい命を育んでいる証でもあります。美しく聞こえてくる鳥の声の裏側で繰り広げられる熱いドラマに思いを馳せ、ぜひ山笑う春をお楽しみください♪
4月にあんなに聴こえていた鳥のさえずりが静かになり、鳥の姿もすっかり見づらくなりました。
5月のある日、昨年の1年生が、どらにゃごの森にかけていた水色屋根の巣箱を、木から下ろしました。今年は風越のお庭にかけようと考えまして。
お掃除する前に巣箱の中を確認してみると、苔がたっぷり敷き詰められた上に、卵を産む産座という窪みにはシカの毛がふんわり。いずれもシジュウカラが森で見つけてきた巣材ですが、私が森を歩いてもシカの毛なんてなかなか見つけられません。なんと目が良いというか、探すべき場所を心得ているというか。卵やヒナを守るため、より良い素材を選んでいることに感心します。
さて、古い巣材を取り出して、新たに風越の庭に掛け直した巣箱。早速翌日には、シジュウカラのオスが物件(巣箱)を内見に来ていました。何度か中に入って、入口の穴から顔を出して。オスは気に入ったのか、メスと相談したかったのか、「ジキジキジキ・・・」と鳴いてメスを呼びます。しかし、メスは森の縁にいて庭までは来てくれません。オスは巣箱の屋根に止まって、首を傾げる様子も。また「ジキジキジキ・・・」と鳴いてみますが、やっぱりメスは現れず。オスはしばらくメスを待っていましたが、そのうちに諦めて森に戻っていきました。どうやらかなり主張のはっきりしたメス。「もうあなたのセンスは・・・」と、メスのため息が聞こえてきそうで。こんなところにかけちゃってごめんねと、私も謝りたい気持ちになりました。笑 (もう少し気に入ってもらえる場所にかけなおさなきゃ!)
4月の中旬〜5月の上旬にかけて求愛し、パートナーを見つけた鳥たちは、やがて巣作りや子育てを始めます。若葉が開き木々が茂るこの季節。鳥たちにとっては、ヒナたちにとって一番栄養価の高い餌となるイモムシがたくさん手に入り、巣も見つかりにくい、子育てに最適な環境なのです。
命が生まれているのは鳥だけ?そんなことはありません。森を見てみると、鳥がイモムシを探すように、リスは鳥の卵を狙い、ヘビは鳥のヒナを狙い、ヘビは時にはリスを飲み込むことも。多くの生き物が子どもを育てるために餌となるものを探していることが分かります。生まれてくる命の全てが大人になるのではなく、他の生き物のエネルギーに変わって、巡っていくこともあります。かわいいだけではない、様々なドラマが繰り広げられる初夏の森。小さな命に思いを馳せ、そっとそっと歩いてみてくださいね。
6月のある日、カラマツ林でアオダイショウが!風越のお庭の川でもヤマカガシが見つかり、「ヘビがいたー!!」と小学生が大騒ぎ。「川の石の間に入ったぞ!」「ヤマカガシは毒ヘビなんだ!」「オタマジャクシが好きだから、ヤマカガシの前に置いてあげればいいんじゃない?」と、興味津々でヤマカガシに関わろうとしていました。自然と共に暮らしていれば、ヘビだけでなく、ハチやクマ、毒のある植物など、危険なものも身近な存在。学園全体で危険生物のことを取り扱い、子どもたちと話をしました。
その翌日、年少のエマちゃんとみほさん(橋場)が、「ゆっけに聞きたいことがあるの」と来てくれました。
エマ「あのさ、ヘビは、ごめんなさいって言ったら、ゆるしてくれるの?」
ゆっけ「うーん、ごめんなさいって言ったら許してくれるかは分からないなぁ。草の中で間違えて踏んじゃったとか、石を投げたとか、ヘビが嬉しくないことを私たちがしたら、ヘビが怒るかもしれないね。でも、嫌なことをしなければ、怒ることはないと思うんだよ。ヘビが、かま首をあげているとか、石の中に隠れようとしているとか、ヘビをよーく見ると、その時のヘビの気持ちが分かるかもしれないよ」
エマ「ふーん」
どうやら幼稚園のつどいで、「中には毒のあるヘビもいる。ヘビは噛むことがある。だから、ヘビは近づいたり触らない方がいい」という話を聞いて、「でもさ、ごめんなさいって言ったら、ヘビだって許してくれるじゃない?」と、エマちゃんはつぶやいたそうです。危ないから避ける、毒があるから怖いではなく、友だちとのやりとりと同じように、ヘビと向き合って分かり合おうとする気持ちからの言葉かもしれません。
ヘビに”許す”という感情があるのかは分かりませんが、ヘビがそこにいる理由は必ずあります。アオダイショウやヤマカガシなどのヘビたちは、気温が上がり、産卵の時期に入っているのでしょう。変温動物であるヘビは、気温が上がれば代謝が上がり、より多くの食べ物を必要とします。子孫を残すためには、たくさん食べて精をつけないといけません。時に命をかけて子育てをしたり、時に誰かに食べられて命を終えたり。彼らがどのように生きようとしているのかを観察し、命の営みを邪魔しないでいられたら、きっとヘビも攻撃することはないのかもしれません。
ちなみに、ヤマカガシは、日本に生息するヘビで最も強い毒を持つヘビです。他のヘビと違って、牙と首の周りで違う2種類の毒を持つ珍しい生態をしています。牙の毒は、ヤマカガシが本来持っているタンパク毒ですが、首の毒は、ヒキガエルを捕食してヤマカガシの体内に蓄積する毒で、他の生きものの毒を利用しています。毒の世界の謎多きところが興味深くて、ついじっくり観察してしまいます。子どもよりも前のめりで、近づきすぎ!とよく言われます。笑
生き物たちのドラマに魅せられて、軽井沢で森のガイドを15年。子どもたちと自然を見続けたくて軽井沢風越学園へ。学園の森の保全しながら、子どもたちと自然の不思議や面白さを見つけていきたい。幼少期は、近所で評判のお転婆娘。実は、冒険や探険に誰よりも心躍らせている。
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