風越 参観記 2023年10月12日

学校のチャイムと子どもの時間(村井尚子)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2023年10月12日

一般的に学校というところは、5分単位の時間で子どもを動かす場所のようである。

6月、実習巡回で全国のいろんな小学校にうかがった。どの学校でも子どもたちは元気いっぱいで、笑顔いっぱいに「実習の先生のせんせい」に挨拶してくれる。

でも、子どもがとくに元気なのはやっぱり「休み時間」だ。

中休み(地域によって呼び名が違ってそれはそれで面白い)やお昼休みはもちろんのこと、5分とか10分の授業と授業の合間でも、すごい勢いで教室を飛び出し、運動靴に履き替えて運動場に飛び出していく子も多い。そして、キンコーンカンコーン(これも鳴ったり鳴らなかったり、音楽が違ったりしていて面白い)という合図の鐘が聞こえると、てんでばらばらに散らばっていた子どもたちが教室という空間に吸い込まれていく。

「起立! 礼! 着席!」の合図も地域や学校によってそれぞれだし、その時に立って挨拶をするのか、座ったままなのか、何度のお辞儀をするのか、椅子は片付けるのか、片付けないのか、いろんな文化があるが、ともあれ、子どもたちは「授業の始まりと終わり」を意識させられ、始まった授業に集中する(ことになっている)。そして、ペアワークをしていたり、ふりかえりを書いていたり、先生の板書を写していたり、夢中で問題を解いていたりしても、45分(もしくは40分)が経ち、終わりの鐘が鳴ると、また、例の「起立! 礼! 着席!」(今後「儀式」と記させていただく)で区切りがつけられる。

小学校の場合は、この区切りは意外と緩くて、終わりの鐘を無視してふりかえりを書いていることも多いし、先生によっては、5分延長してしまったら、次の授業の始まりを5分遅らせることもあるようだ。

それにしても、子どもを5分単位で動かすこのシステムは、明治の学制とともに導入された、考えてみれば比較的新しい(人類10万年の歴史から見れば)システムだと言えるだろう。

風越では、授業のはじまりやおわりの鐘は鳴らない。スタッフの方に「子どもは自分で時間を見て動いているのですね」と尋ねると、「時間を見て動いている子もいれば、見ていない子もいますね」という返答だった。それはそれで素敵だ。

はじまりの儀式はないので、ピシッとというよりは緩やかな感じで授業がはじまる。遅れてくる子もいるが、もちろん先生は叱ったりしない(もしかしたら、遅れないようにねと声をかける場合もあるのかもしれないが、それは「注意」でも「叱咤」でも「叱責」でもないだろう)。なんとなくはじまるように見えるが、いつの間にか授業(やプロジェクトなど)に子どもたちは集中している。

子どもたちの授業やプロジェクトへの集中の度合いはとても素敵で、見ているわたしもいつの間にかひきこまれているのを感じる。自分の興味のあることに自分から取り組もうとしている姿勢、といってよいのだろう。

たいちさん(井上)の授業では、子どもたちが振り子を作っていた。ビー玉にたこ糸をくくりつけて振り子をつくる。糸の長さを変えてみたり、ビー玉の大きさを変えてみたり、一つ一つの振り子の距離を変えてみたり。振り子が美しく触れているのを眺め、動画を撮る。宝物を見るように自分たちの作品を眺めている。たいちさんは多くは語らないが、絶妙なところで絶妙な声かけをしている。声をかけられた子は、さらに目を輝かせて、次の課題に挑んでいる。

あっという間に一つの授業の区切りが終わる。つまらないなあ、早くおわらないかなあといった(他の学校や、もちろん筆者の大学の授業などでも学生たちが感じているかもしれない)空気感がほとんど感じられない。子どもの感覚に合わせて時間が過ぎているようだ。

授業がおわるときの儀式もないので、いつの間にか授業がおわって、次の授業の部屋へと子どもたちは移動している。さっきの授業の余韻を感じながら移動している子、次の授業はどうしようかなと想いを馳せている子。様々なのだろうが、印象的だったのは、上に書いたような一般の小学校でよく見かける授業中の緊張と休み時間の弛緩との落差があまり見られなかったことだ。それは、子どもたちが授業中に緊張を強いられていないということを意味しているのだろう。だから子どもの身体の有り様が、ずっとやわらかな感じであり続けている。

もちろん、発表したり自分の意見を言ったりするときは、いい意味での適度な緊張感はあるだろうしそれもまた必要なことだと思われる。けれども、過度な身体の緊張はからだを縮こまらせ、柔軟な思考や創造性を奪ってしまうのではないだろうか。

風越で子どもたちが伸びやかに学校の中で過ごしている姿を見て、5分単位で子どもに緊張と弛緩を強いるいまの学校システムにあらためて違和感を感じた。

 

書き手:
京都女子大学発達教育学部教育学科教育学専攻 教授 村井 尚子

 

#2023

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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