こらぼジャーナル 2019年3月18日

こらぼジャーナル(5) 学びを開くことで生まれる協同

山﨑 恭平
投稿者 | 山﨑 恭平

2019年3月18日

子どもたちは第2期こらぼの「メカ工作」の時間で、マイクロビットという小さなコンピュータを使っていろんな作品を作ってきましたが、その中でゲームを作る子が何人かいました。一緒に作るというわけではなく、それぞれが別々の作品を作り、取り組んでいた時期も少しずつ違いました。この話はゲームづくりプロジェクトの中でも、ゲーム機本体を作ることに凝ったじん、だいち、ゆうやの3人の協同的な学びのエピソードです。

12月に入ったころのこと。5年生のじんが「意味分からーん」と言いながら、ゲームづくりについて載っている本とパソコンの画面を何度も交互に見ています。どうやら、作っているスロットゲームのプログラムは完成したのですが、自分の名前や温度を表示する機能を足そうとすると、ゲームの様子がおかしくなってしまうようです。なかなか思い通りにいかず悶々としていると、1年生のだいちが話しかけました。

スロットゲームづくりをするじん。キーボード上にあるのがゲーム機本体。

「え、すごっ。ゲーム機みたい!これどうやって作ったの?」だいちは、じんが作ったゲーム機本体が気になった様子。「簡単だよ。教えてあげる」そう言うとじんは席を立ち、だいちを連れて材料置き場に向かいます。じんは、材料を手に取って作り方を説明しながら、作ってみて分かったことを話します。たとえば、凹凸のあるマイクロビットを平らな段ボールに付けるために小さな段ボールの欠片をはさむ、といった作る過程で起きた問題をどうやって解決したかについても具体的に話しました。「でもね、マイクロビットを段ボールに貼っちゃうと裏にあるリセットボタンは押せなくなるの。反対側から強く押すか、電池を抜けばいいんだけどね」と最後にちょっとした課題についても伝えます。

 

一緒に材料を選びに行くじんとだいち

 

材料を選んだあと、じんはだいちの横で作り方についてアドバイス。だいちはじんの話を「へぇ」「あーなるほど」とうなずきながら聞き、話が終わるとじんの顔を見て「分かった。ありがとう」と言いました。じんは、ちょっと恥ずかしかったのか「どういたしまして」と素っ気なく言うと、自分のパソコンへ戻って行きました。

そうしてだいちもゲーム機本体を作りはじめました。だいちは、じんが「マイクロビットを段ボールに貼っちゃうと裏にあるリセットボタンは押せなくなるの」と言っていたところを改良しようと自分のアイディアを加えます。マイクロビットを貼り付ける位置の段ボールの一部に5mm角ほどの穴を開け、リセットボタンの位置を合わせることで、少しボタンが奥まっているもののリセットボタンを押せるようになりました。だいちは、思いついたアイディアがうまくいったことがうれしく、「ね!ね!見て見て!ここから押せるんだよ」と駆け寄りながら話します。その後も完成したゲームとともに、リセットボタンのアイディアを仲間に紹介しました。

 

自分のアイディアを仲間に紹介する

だいちはゲーム機本体をもっと良くしようと、取り付ける方法を両面テープから輪ゴムに変えてマイクロビットの取り外しをできるようにしたり、電池ボックスを入れる場所を取り付けたりしました。だいちは、改良したゲーム機本体の新しいアイディアや機能について、仲間に遊んでもらいながら話します。そうして、だいちのゲームづくりプロジェクトはいったん終わりを迎えました。

改良部分の良さについて話すだいち

 

さあ、このゲーム機本体を作る話で、最後に登場するのは3年生のゆうやです。ゆうやは、12月上旬から1月下旬までゲームづくりをしていました。こらぼにあった本に載っているゲームを再現したいという一心で取り組むのですが、なかなか難しい。一度はあきらめかけるのですが、振り返りに「むずかしいけどやればできる」と書き、粘り強く取り組みます。1月も下旬にさしかかるころ、ついにゲームのプログラムが完成しました。

そのあと、ゆうやはゲーム機本体を作っていきます。この頃にはだいちをはじめ、何人かゲーム機本体を作り終えた子がいたので、それらを見せてもらったり、作り方を聞いたりして参考にしながら完成させました。段ボール製の箱でできたゲーム機本体にマイクロビットがぴしっと埋め込まれ、電源や通信用のケーブルの差し込み口もばっちり。なによりもゆうや自身が「ここがうりなんだよ!」と話してくれたのが、リセットボタンです。箱に埋め込まれた本体のリセットボタンは奥まったところにあるのですが、それをストローと厚紙で延長しました。だいちが作ったゲーム機より、さらに押しやすいようになっています。じんが作っていた時には押すことができなかったリセットボタンはここまで発展していました。

ゆうやが完成させたゲームで周囲の仲間は大盛り上がり。12月からずっと作り続けてようやく完成したゲームを楽しんでもらい、ゆうやは誇らしげな様子です。ゲームをやってみたじん達は、「あのゲーム機本体はすごい」「やばいね。ボタンとかコードがすごすぎ」と大絶賛。ゲーム機本体を作るというアイディアはもともとじんから始まったものでしたが、改良点を仲間にシェアしただいちなど何人ものプロジェクトを経て、ゆうやの作品づくりにつながりました。

ゆうやの作ったゲームで遊ぶ仲間

 

ゆうやがゲームを作り始めた頃のことです。ゆうやが私の近くに寄ってきて、「ねぇねぇ。僕さ、こんなにこらぼを好きになると思わなかったなぁ」と話しかけてきました。「どうしてそう思うの?」と質問すると「みんな、やさしいんだもん。分からないことは聞いたら教えてくれるし、真似しても怒らない」と返してきました。この言葉を聞いて、なるほどなぁと思いました。

なぜ私が「なるほどなぁ」と思ったのか、話はさらに少し戻ります。風越こらぼの「メカ工作」が始まってしばらく経つと、それぞれ別々の作品を作っているので、学んでいることもそれぞれ違いました。その様子を見ていて、お互いの学びを共有することができたらいいなぁと思い、中間発表会をしようと子どもたちに提案してみました。

でも、これが残念なくらい話に乗って来ない。一人も「やろう!」とか「いいね!」とか言わないで、全然興味ないって感じ(笑)。

そんなことがあったので、ゆうやの「分からないことは聞いたら教えてくれる」という言葉に「なるほどなぁ」と思ったわけです。つまり聞く方も教える方も自分のタイミングです。結局、私の提案した「中間発表会をしよう」というのは、大人がコントローラーを握って、こちらのタイミングで「学びを開かせよう」としていたのでした。これが失敗のもと、思い違いだったのでした。

風越こらぼでは、じん、だいち、ゆうやのように、自然発生的に一人ひとりの経験やアイディアが広がっていき、個々のプロジェクトがつながっていきました。ゆるやかな関係性の中で、誰かの学びが、また別の誰かの学びを手助けする、そんな小さな協同が次々に起こっていきました。この小さな協同が生まれるためには、まず、自分の経験やアイディアといった学びを開くこと、そして開く側も聞く側も自分自身でそのコントローラーを握っているということが大切なようです。

知りたい、学びたいと思ったら、必要に応じて一緒に活動する仲間から知識を得ることができる環境を子どもたち自身が大切にしている。また、教えてもらった時に自然と「ありがとう」「すごい!」という気持ちが現れることで、教え手は自分が学んできたことに自信をもつことができる。こうした関係性によって、またさらに学びを開きやすく、協同が生まれていくのだと気づきました。

#2018 #探究の学び #異年齢

山﨑 恭平

投稿者山﨑 恭平

投稿者山﨑 恭平

旧・亀田出身。大阪、上越を経て、軽井沢へ。手元感ある日々を求めDIYな日々。コーヒー、日本酒を愛しています。広げて、捉え直す日々にしたい。

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