2018年12月22日
前回のジャーナルの、「たいようの算数探究」をさかのぼること、1ヶ月半ほど前の8月末、ゆりなの算数探究の様子です。
まず1つめの動画を見てください。
何をしているかわかりますか?紙を折っています。その紙、よく見ると、展開図が書いてあるのがわかりますか?なぜ彼女が展開図を書いているのか、まずそこから説明します。
ゆりなは、「2学期に何をこらぼでやりたい?」と聞いたときに、「算数の自習」と答えました。とはいえ作家活動に取り組んだり、室内をぶらぶらしたり、ピクテルというボードゲームを持ってきてやりたいと言うも、スタッフに「それはなしね」と言われる始末。そのうち、奥の遊具置き場でブロックあそびをはじめました。
このブロックあそびにスタッフが一緒に加わり、大きさの違う同形の遊具を並べ、家族を表現し、ごっこあそびを楽しみます。ゆりなが「持って帰りたい」と言うも、「これは持って帰れないなぁ〜、じゃあ、紙でつくってみれば?」とスタッフに言われ、そこから「つくる」という流れに。まず積み木の中で一番小さい立方体をつくろうとします。ここからはスタッフはじっと見守るだけ。ゆりなの探究がはじまります。
動画にはありませんが、最初、紙を立方体の周りに巻き付けて、包もうとします。包んで折り目をつけ、はさみで切り取るのですが、筒状の4面しか切り取れず不完全(たぶんここで何かに気付いたと思われます)。
次に彼女は、紙に図を書きはじめます。最初は定規を使って立方体の面の辺の長さを測り、それを書こうとします。そのうち、立方体の面を写し取るほうが楽だと気付き、写し取りはじめます。何面必要なのか、どのような並びじゃないとだめなのか、たぶんいろいろと考えたんだろうと思います。
次の動画を見ると、展開図には、いらない面を黒く消してある部分が見えます。試行錯誤を繰り返したんでしょう。
この後、はさみで切り取り、セロハンテープで箱の形にしていきます。では、続きの動画をお楽しみください。
この時すでに時計の針は6時を回っており、それでもゆりなは集中して取り組んでいます。周りには、スタッフ2人とゆりなのお母さんと弟。静寂の中、じっくり見守ります。最後のゆりなの声と笑顔、とってもいいですね。お母さんの泣きそうな顔もステキでした。弟に「サイコロできたの?」と言われ、「サイコロじゃない!積み木!!」と憤慨しているゆりなが、またいっそうかわいかったです。
さて、ゆりなは小学2年生。展開図から立方体をつくるのは4年生の単元です。2年生にも「はこのかたち」という単元がありますが、これは3学期の単元なので、ゆりなはまだ未履修です。なぜ、ゆりなが立方体をつくろうとして、立方体の展開図が書けて、立方体をつくることができて、「できた!!」っていう達成感を味わえたのか。ちょっと考えてみたいなと思います。
この探究に入るきっかけは、スタッフの「紙で作ってみれば?」です。この一言、とっても大きいですね。ただの積み木あそびが、一気に算数の探究になるきっかけになりました。これをどう受け取るかは、ゆりな自身の特性によりますが、こういう「足場かけ」の言葉ってとっても大事。なので、一人一人の子どもの特性を考えて、効果的な足場かけの問いを発するのは教育者側にとても必要なスキルだと思います。ゆりなには、この言葉がヒットしました。
その前段階、この探究の入り口が、「あそび」からというのも大きいなと思います。幼児期の知的探索活動である造形あそびが、小学校の図形領域に結びつくと言いますが、別に小学校でも造形あそびしたっていいじゃん!って思います。風越ではいっぱい造形あそびしましょう!このあたりは、スタートカリキュラムとも関わるところかもしれませんね。立方体(積み木)であそんで、触って、見て、積んで、並べて、壊して…そのうち「これ、つくれんじゃね?」と知的な好奇心がむくむくとわき上がる…そんな探究の入り口、いいですよね。
ゆりなは体験的に学んでいます。展開図をつくる段階で、筒状に包んで切った紙には折り目で分けられた4つの面があったはずです。そこから、まだあと2面足りないと気付き、この箱には6つの面が必要とわかったのではないかと思います。(面という用語は知らないけれど)展開図には黒く塗りつぶした面が書いてあるので、その2つを4つのどこにつけるか、これもたぶん1回以上失敗している。こうやって、彼女は立方体の展開図を完成させました。(立方体も展開図も用語としては知らないけれど)
そもそも、展開図を書いて立体を完成させるという考え方はどこから出てきたのでしょう?それは、最初に彼女がやった、「包む」という行為だと思われます。包んで切ったら、4つの面が連続した1枚の紙になった、という事実があったからなのではないでしょうか。この体験を生かして、6面が連続した展開図を書けばいいという考えに至ったと思われます。
2年生の教科書(下巻)では、「はこのかたち」という単元で、箱(直方体)をつくる学習があるのですが、どうやってつくっているかというと、まず、単元の最初のほうで、箱のすべての面を写し取って、何面あるか数えて、箱には6つの面があるということを押さえています。押さえたら今度は、6面をバラバラに切って(その面はすでに縦横の長さも適正になっていて、絶対失敗しない用意がしてある)それをつなげて箱を完成させるようになっています。展開図は出てきません。4年生の教科書には、「右のような形をした箱があります。この箱を辺にそって切り開いた図を工作用紙に書きましょう」という問題があるだけです。子どもたちは頭の中で、この箱を切り開くのです。そして、最後に「上のような図を展開図といいます」で終わりです(笑)。体験的に学ぶということは、トライアル&エラーの繰り返し。それをじっくり取り組むことが許されている場、たっぷりな時間、それをゆったり見守る人…こらぼはそんな場でありたいです。
子どもはすごい、それにつきます。2年生だからこれくらいだろうとか、こういうふうに考えるだろうとか、私たちはどうしてもとらわれてしまいます。でも、子どもの可能性って計り知れないですね。たぶん、もっともっとその可能性は広がるんじゃないかと思います。
ゆりなはこの後、次々と立体をつくっていきます。彼女の探究はどのように続くのか、またそれに対してスタッフはどのように関わっていくのか、後編でお伝えします。