2018年9月19日
昨年のサマースクールに参加した幼児を対象にちいさく始めた「かぜあそびの日」は、季節をひと巡り。今年の4月からは居住地域に関わらず参加を受け入れたことで、ぐっと人数が増えました。月1回ではありますが、何度も参加している子どもたちの経験と安心は少しずつ積み重なり、初めて参加する子どもたちも彼らを通じて場と人に慣れ、あそびが広がったり深まったりしています。また、軽井沢風越学園が目指す「幼小中の混在」を視野に入れ、昨年度のかぜあそびの日から継続して参加している小学校1年生の子どもたち4名も、ジュニアスタッフとして幼児に混ざって参加しています。
春から夏にかけてのかぜあそびの日でのエピソードをいくつか紹介します。
昨年度から参加のコウタは3月まで、一つ歳上のサクタロウにずっとくっついて遊んでいました。でも4月から小学生になったサクタロウは、幼児とは違う自覚ができたのか、同じ1年生のタイチと遊ぶようになり、この日のコウタはなかなか遊びに入れないまま。そんな時、スタッフとコウタで話をしていると、コウタが側にいたコウジのことを「この子がね…」と言います。スタッフが「名前わからないなら聞いてみたら?」とコウタに促し名前を尋ねると、「コウジ」という答え。「コウタとコウジ、名前が似てる!」と盛り上がり、ふたりで、川に探検にでかけました。川で虫取りに夢中になった二人。コウタには遊びなれた場所のはずなのに、「俺ら、どこにいるんだろう?」と言い始めます。すっかり迷い込んでしまった気分の二人は、コウタが先に歩き、コウジが後ろをついていきます。途中にある分岐を前に、「おれら探検隊だから、こっちでしょ!」とハードな道を選ぶコウタ。泣き言も言わず必死でついていくコウジ。しばらくして、見慣れた崖の壁を見つけると、「もう大丈夫!」と嬉しそうな一言をあげました。遠くから他の子の声が聞こえてくると、「みんな、おれらを探しているのかもしれない。」、「おーい、おれら帰ってきたよー!」と叫ぶ二人。実際はほんの数十分の出来事でしたが、二人にとっては、何時間もの大冒険だったようです。
草の背丈が伸びてくる季節。少し奥まった敷地で、朝から小1のユリカとマイが秘密基地づくりを始めました。すだれのようなものをかけ、木のそばにテーブルを運んで、お気に入りの場所をこしらえました。お昼ご飯時には、おもしろそうな気配を感じて、自分たちもここでお弁当を食べたい!と近づいてくる幼児たち。ユリカとマイは加わった幼児たちに、秘密基地の周りに落とし穴を掘ってね、と声をかけます。役割をつくって遊びを発展していけるのは、小学生ならでは。先の見通しを持って考える、工夫する、役割を分けるといったことは、幼児だけではなかなか起こりません。ちなみにユリカとマイも、昨年度から参加しているメンバー。最初はなかなか自分のやりたいことや思いを口に出せずにいたマイは、回を重ねるごとに自分から遊びの提案をすることが増えてきました。そんなマイにユリカがポロッと、「マイちゃんってそんなキャラだったっけ」と一言。子どもたち同士でもそんなふうに思うほどに、毎回違った姿が見られます。
この日のおやつはスイカ。「スイカ割りやるよー」、といって子どもを集めるのではなく、「スイカ割りできるけど、やりたい人いる?」とスタッフが差し出すように呼びかけます。やりたい子どもたちが集まって、自然に男子チームと女子チームの2つに分かれました。スタッフからやり方やルールを話さずに少し様子を見ていると、自分たちで考えて並び、一人ずつスイカの前へ。男子はとにかく気のむくままに。バットの反対側でスイカを叩く子もいれば、空手のチョップでスイカに挑む子どもも。一方の女子は、王道のスイカ割りスタイルをみな繰り返し、見事に先に割れ、食べ始めます。男子は女子が食べ終わる頃に、ようやくスイカにありつけました。大人が決めたルールを伝えなくとも、子どもたちは自分たちで考えて、目隠しするかしないかはその人自身が決められるなど互いに心地よいルールを探し出します。自分たちのスイカ割りを大盛り上がりで楽しんでいました。
かぜあそびの日では、おおまかな流れはあるものの、決まったスケジュールがあるわけではありません。その日、その時に子どもたちがやりたいことをやりたいように過ごしています。なかなか遊びに入っていけない子どもがいるときも、無理に遊びに誘導することはせず、遊べない状態につきあっています。昨年夏のサマースクールから一緒に保育をスタートしたかぜあそびの日のスタッフ。そこから月に一回のかぜあそびの日の経験を、子どもと同じように積み重ね、お互いを理解し少しずつ関係を築いてきました。スタッフで事前に綿密に打ち合わせて、一日の計画をしっかり立てるということはありません。大人が手を出し過ぎていないか。大人が先回りしていないか。今この時間や経験が、子どもたちが主人公になっているか。これらのことは、どのスタッフも意識して、スタッフそれぞれの違いを活かしながら、子どもたちと関わっています。
たとえば、お昼に豚汁を鍋からお椀によそうシーン。子どもに自分でよそうか、よそってほしいか。お椀を自分で持っていけるか、持っていってほしいか、子どもに確認します。たとえば、かくれんぼが始まってすぐ号泣している年少のショウゴ。訳をきくと、「ぐとぱでわかれましょ」の意味がわからなかったとのこと。すると、近くにいた小1のタイチがすぐに、「ちょきはだしちゃだめで、ぐーとぱーで同じになった人がグループにわかれるんだよ」と説明してくれて、ショウゴは落ち着いてまた場に戻っていきました。
大人がやったほうが早いこと、伝えたほうが早いこともたくさんあるけれど、子どもが自分でやるからこそ、子ども同士の関わりだからこそ、積み重なる経験や残る気持ちがあります。
9月から秋のかぜあそびの日がはじまりました。昨年度から参加している子どもたちは、四季を通じて「鳥井原の森」を身体全体で味わっています。最初の頃は10人くらいのちいさな集まりだったのが、ここ数回は30人以上の参加。ちょっと雰囲気も変わってきたかもしれません。継続して参加している子どもの一人は朝出かける前のお家で、「なんか、まえと、ちがうんだもん…」と、ぽろりと気持ちを言葉にしたそうです。この気持ちの底にあるもの、言葉の出所ってなんだろう…、とスタッフミーティングで話題になりました。10人でも30人でも、大切にしているものを変わらずに大切にするには…。まだまだ試行錯誤は続いています。
スタッフの一人がこんなことを呟きました。「フィールドを知り、人を知っていくと、どんどんやりたいことが増えてくる。」この感覚、大人も子どもも同じなのかもしれませんね。次は、どんなことがやりたくなるかなぁ。