2018年8月20日
軽井沢風越学園の遊びと学びが体感できるサマースクールを今年の夏も開催しました。7/30〜8/2に行われた小学校1〜3年生のサマースクールは36名が参加、「本物の写真」をテーマに4日間を過ごしました。
初日は、「浅間国際フォトフェスティバル」(8/11〜9/30まで開催)の会場である御代田写真美術館(旧メルシャン軽井沢美術館)にて、新しい友だちと少しずつ出会い、カメラと写真を通じて表現することに触れました。
子どもたちが最初に手にしたカメラは、チェキ。2人で一台を使って、「なつっぽい」、「かわいい」などのテーマから発想した写真を撮りました。
つぎに写真家の岩田量自さん(通称ジョニー)が撮った写真を見た後、一人ずつに用意されたミラーレスの本格的なデジタルカメラを手にしたときの嬉しそうな子どもたちの顔が印象的です。あっという間にカメラと仲良くなった子どもたちは、2日目以降は別のフィールドでたっぷり遊び、たっぷり写真を撮りました。
具体的な撮り方について教えたりしなくとも、子どもたちは自然にこう撮ったらおもしろいものが撮れるんじゃないかと思いついては、それを試していました。
また、岩田さんが撮るときに意識していることのレクチャーを受けることで、なんとなく撮っていた子どもたちの写真が、すぐさま変化したり、『おしゃべりな森』(野呂希一、講談社)という絵本を通じて、木や葉っぱ、森にある自然をよく見てみたらこれまでと違った世界が見えるかも、という提案をしてみたら、撮るものの選び方が変わったりと、ぐんぐんと吸収していく子どもたち。岩田さんから、みんなの中で写真家を目指す子どもが出てくると嬉しいなぁという言葉が出るほどでした。
撮った写真はその日によって印刷できる枚数を決めました。写真を撮ることに時間をたくさん使う子もいれば、選んで現像した写真を飾ったりスケッチブックに貼って絵日記のように表現することに時間をかける子もいます。そして毎日のお迎え時には、どの子もとっても誇らしげに今日撮った写真を見せていました。
4日間ずっと写真を撮り続けていたわけではありません。半分くらいの時間は、たっぷり思う存分に森での遊びを楽しみました。川で遊んでいる人の横で、水に石が落ちる瞬間を何度もじっくり撮影している人がいたり、遊びと学びがいったり来たりしていました。たっぷり遊ぶ時間をとったことで、写真の時間にぐっと入りこめたように思います。
今回、どんなサマースクールにしようか考えたときに、室内でいわゆる学びに寄せた4日間にすることも案の一つでした。ただそうなるとスペースの関係で参加できる子どもたちの数は限られてしまう。室内のみで4日間となると、子どもたちの関係性も限定的になってしまいそう。ということで今年も野外で行うことにしました。野外では、心身ともに開放的になり、自然と様々な遊びが生まれます。遊ぶことで子どもたち同士の関係が育まれ、写真の時間には互いの写真を撮りあったり、撮るものの準備を手伝ったり、日を追うごとに作品にも遊びを通じた子どもたち同士の関係性が現れていたように思います。また7月から始まった風越こらぼに参加している子どもの様子が、サマースクールでは全く違っていたことも印象的です。室内と野外、環境や場面が違うだけでこんなにも変化するなんて、その子のことをある一面だけでは判断できないな、とつくづく思いました。
最終日には、森の中で写真展覧会をしました。家族に見てもらいたい写真を選び、お気に入りの場所に飾り、どんな展覧会にするかは、お昼ご飯を挟んで子どもたちと相談しようと思っていたら。何人かの子どもたちがお昼休憩の間に、展覧会の看板と受付で渡すチケットをつくっていました。それならば、と他に必要そうな準備を子どもたちに案を募ることにしました。
すると、色んなアイデアが子どもたちからどんどん出てきます。会場の中を案内したい、おみやげを渡したい、休憩コーナーをつくりたい、子どもたちが大好きだった「ミステリーバス」と呼んでいる場所に案内したい、家族がカメラで撮影できるコーナーをつくりたいなど。それまで活動していたグループや学年が混ざり合い、そのことをやってみたいメンバーを募り、話し合いをして準備開始。家族を迎えるまで1時間半、一気に展覧会の準備が進みました。「やりたい!」という自分たちので思いから始まったことだからこそ、やりきれたのだと思います。
4日間を通じてできた子どもたちの関係性から起きたできごとを、もう少しご紹介します。
困ったり、感情的になっている子どもに対して、周りの子どもが素直な言葉をかけることで、大人が関与せずとも、すっと気持ちを落ち着かせていく様子が何度も見られました。大人たちがあれこれ考えて選ぶ言葉は、なんとも遠回りだなと思ったりします。
もう一つは、喧嘩。特に自由遊びで子どもたちに人気だったのは、大きな2メートル四方のハンモックと水場の2箇所です。
ハンモックは、ゆれてぶつかるうえに、高さが異なる場所取りをめぐって、しょっちゅうトラブルが起きました。あるとき、ハンモックの近くで「あいつにいなくなってほしい!」とカンカンに怒っている一人の男の子。スタッフが声をかけ、その怒りの気持ちを手紙に書きました。それを持ってハンモックで楽しそうに遊んでいる相手に伝えにいくと、「お前がいなくなれ!」とその子も応酬。しばらく互いに激しく罵り合っていました。ボーダーのシャツを着ている相手に「しましまおにぎり野郎!」と言葉を投げつけたのですが、「あ、俺もしましまの帽子だ!」「俺たち、2人ともしましま野郎じゃん」と笑いが起きました。「なんかもういっか」、という気分になったのでしょう。その怒りの手紙は、ライターで燃やして、おしまいです。
水場では、自分が水をかける順番が代わってもらえず殴り合いになった二人。一人がぜったいに許せない、と水場に怒ったままで残っていたら、もう一人がすっと戻ってきて、「さっきはごめんな」、と一言。すると、さっきまで絶対に許せないと言っていたのにも関わらず、「うん。いいよ、大丈夫」、と言って、一緒に活動に戻っていきました。
大人が介入して喧嘩を止めることも、もちろんできます。でもそうやって途中で止められてしまった気持ちは行き場がなくなってしまう。子どもたちは自分たちで解決する力があることを信じて、喧嘩も含めて見届けるようにしています。
このように、遊ぶことと子どもたち同士の関係をつくることを大事にしながら、4日間を過ごしました。自由度の高い時間の中で、本物のカメラを使って子ども自身が撮りたいものを撮り、撮ったものを使って表現できたこと、そして子ども自身が何にどれくらい時間を使うか選べる余地があったことで、自然に自分の関心やこだわりが現れていたように思います。またプロの写真家が伴走してくれたことで、子どもたちの経験・作品は本物に近づいていきました。
人から何かを教わったり、言われたとおりに真似てみるところからスタートし、そこから自分で新たにつくりだす学び。そして自分がつくったものを誰かに見てほしい、誰かに伝えたい、というところから始まる学び。そんな学びがいっぱい詰まった4日間でした。
開催にご協力いただいた皆様:
岩田量自さん(写真家)
株式会社アマナ (浅間国際フォトフェスティバル会場の無償提供)
キヤノンマーケティングジャパン株式会社(デジタルカメラ・プリンターの無償提供)
富士フイルム株式会社(チェキの無償提供)