2018年8月20日
2018年8/3〜6に行われた小学校4,5年生のサマースクールは22名が参加、「本物の風越山荘」をテーマに1.5坪の小屋を建築する4日間を過ごしました。
高学年は「建築」に取り組んでみようと決めたあと、5月の学校づくり途中経過報告会に参加してくれていたセルフビルドパートナー・えんがわ商店の渡辺正寿さんに相談。渡辺さんが仲間の加藤郷生さんに声をかけてくださり、事前に何度も打ち合わせを重ねました。4日間という期間の中で、どんな建物をつくるかの設計部分から子どもたちと一緒にするとなると、それだけで終わってしまう。でもその設計こそが一番楽しいところであり、決まったものを組み立てるのは本物といえるのか。子どもたちにとって本物の建築は、きっと未経験。到底1人ではできないし、簡単にはいかないだろう。どうすれば本物の体験ならではの気づきを得ることができるか、迷いながら準備し当日を迎えました。
1日目の午前中は、遊びの時間をたっぷりとることからスタート。まずは4日間を過ごすフィールドと、他の参加者たちと出会い、場に馴染む時間を持ちました。
その後、本城から現在工事中の軽井沢風越学園の校舎の模型を紹介。この模型は、今回のために校舎設計をお任せしている環境デザイン研究所の事務所から移動し、組み立てていただきました。
そして、Googleマップで敷地の衛星写真を見ながら「この敷地内に3歳から15歳までの子ども達が遊んだり学んだりする『風越山荘』を4日間で建築してほしい。まずはこの場所につくり、2020年には学校敷地内に移築したい。」という依頼が、本城から子どもたちにあり、参加者ひとりひとりに発注書が手渡されました。その後、「皆さんだけの力では建築するのは難しいと思うので、本物の2名の大工さんに力を貸してもらいます。」と渡辺さんと加藤さんの紹介があり、二人からどんな建物を、どんな手順で建築するかの説明を受けました。
このタイミングで、初めて今回のテーマを知った子どもたちは、やや動揺。聞き慣れない用語が多くて難しく、手元の発注書に設計図はあるものの、具体的な大きさやプロセスのイメージがわかない様子のまま、まずは外壁を塗る作業と基礎づくりに分かれました。
基礎を打つためには、水平状態が必要です。建設地は平らに見えるけれども、実際はやや傾斜していて、基礎の下の砂利の量を少しずつ調整しながら水平器とにらめっこしながら水平を探ります。その後、基礎部分の直角を出すには、算数の出番です。直角定規はあるけれども、それだけでは短すぎて、線を延長していくとだんだんずれていってしまう。メジャーを活用して、0m、3m、7m、12mのところを持ち、0mと12mを合わせて直角三角形をつくる。三平方の定理の活用です。こうしてメジャーと指金(直角定規)を使いながら何度も微調整しながら慎重に直角を出していきました。
なんとか基礎の完成と、外壁塗装を終えて、1日目が終了です。
2日目は、道具の準備をしてから渡辺さん、加藤さんから道具の使い方についてミニレッスン。その後、みんなで上棟準備に取り掛かります。
想定していたよりも子どもたちにとっては高所での作業が多く、脚立の上では作業できる子どもの数に限りがあるので、手が余った子どもたちは途中作業を抜けて遊んでしまう様子もありました。昼食と自由遊びの時間を過ごしたあと、建具の窓と扉のデザインを考えるチームと、床を張るチームに分かれて作業。どうやらこれくらいのグループサイズが作業しやすそう、という手応えを得ます。最後に上棟式をやって、この日は解散。
実は、2日目を終えた時点で予定の工程からずいぶん遅れをとっていました。みんなで一つのことをやることを意識したがゆえに手が余ってしまったり、子どもたちの気づきを大人が待った場面が多かったりしたのが原因です。もちろん、一つ一つの作業を楽しんでいる子ども、プロの工具を使うことを楽しんでいる子どももいましたが、全体の動きにはなっていなかったというか…。でもそれは、スタッフの関わりによって生まれていたのだと思います。
2日目終了後のスタッフミーティングで、このままだと大人でも間に合わない、ということが確認され、3日目の朝は子どもたちとその状況を共有するところから始めました。当初は、屋根も含めて子どもたちが仕上げる予定だったが、大人でも間に合わない可能性と、完成が見てみたいということを伝え、助っ人スタッフの江原政文さん(コワーキングスペース イイトコ)と小川佳也(設立準備財団スタッフ)が屋根担当として子どもと一緒につくることに。彼らにも発注書が渡され、屋根の上の作業に取り掛かりました。
現状と全体像が子どもたちに伝わったせいなのか、この日を境に、子どもが自分たちで考えて、自ら動く様子が一気に増えました。2日目までは、作業が終わったら他の場所で遊ぶこともあったのが、3日目からは子どもたち同士で「次何やるんだっけ?」というやりとりが生まれ、大人の力が必要なところは、「ちょっとこれ手伝って」、と大人に声をかけるようになったのです。また「建物、扉、窓」と分業することで、子どもたち一人ひとりの仕事になっていきました。3日目は終了時間ちょうどに、目標としていた工程を終えました。これには大人たちもびっくり。
いよいよ最終日となった4日目、一日を通してものすごい集中ぶりでした。こちらが休憩を促さないと、子どもたちも(屋根の上の大人も)なかなか休憩をとろうとしません。残された仕事に次々と取り組む様子は、大人も子どもも関係なく、ひとつのチームでした。
途中、何度か通り雨がやってきました。空を見上げて、雨が降るんじゃない?と大人に聞く子、降り出したらすぐさま一緒にブルーシートを被せ、電動工具を屋根の下に移動させる子が、小さい職人に見えました。昼食をとった後もほとんど遊ばず、すぐに仕事に戻ります。解散時間が近づくにつれ、なんとも表現しがたい時間の流れでした。なんとか完成が見たい、とスタッフも総動員で作業に入ります。でも、もうあと一息、というところで終了時刻を迎えました。結果は、「ほぼ完成」。夏場の軽井沢は、本来であれば工事自粛期間です。今回はご近所の皆さんに無理をお願いして、特別に作業をさせてもらっていました。その約束時間の延長は難しかったのです。
今回、無理に子どもたちに完成したい気持ちを持たせるような誘導はしたくないよね、とスタッフ間で話していました。でも、自分たちの手でつくっていく楽しさ、ちょっとした成功と失敗を繰り返しながらできることが増える喜び、みんなで一つの完成に向かっている一体感は、日を追うにつれ、なんとか完成させたいという気持ちに繋がっていったように思います。家に発注書を持ち帰り、翌日の仕事を確認していた子どももいたそうです。
今回のサマースクールは、事前に大人がテーマを用意し、それを子どもに伝え、取り組みました。子どもの「やりたい」という内発的動機から始まった学びではありません。学びにおいて、つい内発的動機によって自走するほうがよいように考えがちですが、今回のように外発的動機から始まる学びも大切だと改めて感じました。
たとえば、限られた道具で同じ作業を仲間で進めるうちに「2本止めたら交代しよう」とルールを決めたり、仲間の作業を見ながら「もっとこっちのほうがいいんじゃない?」とよりよい方法を工夫したりと、自分が気づいたことを共有し、仲間に学びが広がっていく様子も見られました。また助けが必要なときに仲間に声をかけたり、自分一人ではできそうもないことに仲間とチャレンジできたことも、今後なにか難しい場面に取り組む際、捉え方や取り組み方が変わる気がします。同時に、どんな人と一緒に学ぶのかも大事な点なのかもしれません。ビスを打つ合間に、近くで黙々と内装仕事をする渡辺さんの仕事ぶりをじっと見つめている子どもがいました。のこぎりが怖いとなかなか作業に入れなかった子どもは、加藤さんの丁寧な使い方の指導とフィードバックのおかげで、窓枠のためのきれいな直角を切れるようにまでなりました。真剣勝負で仕事をする大人の存在があったからこそ、与えられた作業が自分たちの仕事になり、こちらが意図していなかった学びや気づきが生まれていきました。
一方で、今回のテーマを4日間ではなく、例えば1ヶ月に渡って集中して扱うと、どんなカリキュラムになるのか、ということも開校に向けて考えてみたいことの一つです。今回の「風越山荘」を学校の敷地に移築したあと、子どもたちとリフォームプロジェクトをしてもおもしろいかもしれません。今回のサマースクールでは、「ほぼ完成」で終えたので、これからも続くと思います。
終了後、事前準備からお手伝いいただいた渡辺さんと加藤さんに感想を聞いてみました。
渡辺さんからは第一声、「実は僕、ワークショップって苦手なんです」。これまで何度かペンキ塗りや本棚作りなどのワークショップを開催してみたものの、うまくいくようにと全部お膳立てしすぎて、本来渡辺さんがテーマにしたい「自分で作るということは、どういうことか?」については伝えられず、疲れてしまうばかりだったそうなのです。そんな心境のときに、本城からの今回の誘いでした。
そして事前の打ち合わせを経て、これまでのワークショップとは別物だな、と思えたとのこと。「そもそも、子どもたちで本当に作ることができるのかどうか?それさえも分からない(笑)そしたら、スーッと肩の力が抜けて、いろいろ考え過ぎても、準備し過ぎてもしょうがない、当日出たところ勝負で、子どもたちと一緒に悩もう!と素直に思えたんです。結果的に僕のやりたい形、伝えたいことを伝えたい形になっていて。おそるべし、風越マジック!(笑)」。
そして迎えた当日。渡辺さんと加藤さんは、ともに本気の真剣勝負で4日間過ごしてくださいました。「最初は子どもたちに探究してもらい、僕たち大人はそれをサポートする!と意気込んでいましたが、結局、後半、は子どもそっちのけで大人必死!でも大人が本気で悩んで、本気でいっぱいいっぱいで、本気で夢中になっている姿を見せられたこと、それが一番良かったのかなと。自分で作るということを選択したことによる苦悩・苦痛をしっかりと伝えられたかな、と思います(笑)」と渡辺さん。
加藤さんは、「参加してくれる子どもたちが主人公だと考えていたサマースクールは、子どもたちと一緒に過ごすことで、実は自分も主人公だったということにも気がつきました。自分自身が主人公になってがむしゃらに楽しむこと。これが今の僕には足りないのだということを子どもたちから教えてもらいました。 みんなと全力で遊びながら建てた4日間。 遊びの中に学びありという考え方がわかり始めた47歳の夏休みでした! 」とのことでした。
こんなふうに子どもたちと、自分自身とまっすぐにつきあう大人と一緒に学びの場をつくることができるのは本当に嬉しく、これから開校までもまた開校後も、こうした関わりをたくさんつくっていきたいと思っています。惜しみなく本物の仕事を見せてくださった渡辺さん、加藤さんをはじめ、丁寧に子どもたちと関わってくださった江原さん、大越さん、環境デザイン研究所の皆さん、本当にありがとうございました。
開催にご協力いただいた皆様:
えんがわ商店 渡辺正寿さん
加藤郷生さん
コワーキングスペース イイトコ 江原政文さん
学び舎key塾 大越要さん
環境デザイン研究所の皆さん