2023年4月25日
(書き手・木村 彰宏/24年3月退職)
「あっきー、4月のLG (5・6年ラーニンググループ) の活動写真をもらえないかな?今の様子と比べると、違いがよく分かると思うんだよね。」
2023年1月下旬のわたつくの時間、めい(5年生)とさんちゃん(6年生)が声をかけてきた。5・6年生の一年間の思い出アルバムを作って、データをみんなにプレゼントしたいのだとか。
子どもたち自身が、共に過ごしてきたコミュニティの様子に変化を感じているということが嬉しかった。
その二人の姿を見ながら僕も、5・6年生ラーニンググループ(以下、5・6LG)の様子が子ども達の中で、1年間かけて確かに変化してきたことを実感した。
そんな変化を振り返ると、その要因の一つとして、この一年間、5・6年生LGスタッフで沢山対話をしてきた日々が関係していると感じている。
「書く書く」と言い続けながら、気がつけば年度末のタイミングでようやく筆を取ることができた今回の記事では、2022年度の1年間、5・6年生LGの子どもたちに伴走してきたスタッフの間で起こっていたこと、スタッフと過ごす時間の中で自分が感じたこと、考えたこと、学ばせてもらったことを、ほんの一部だが言葉にしてみようと思う。
2022年の4月12日、5・6LGで迎えた最初の時間、僕がファシリテーターをつとめ、スタッフを交えた47人がみんなで円になった。「いよいよ新しい学年がはじまるね。今の気持ちを一人一言ずつ話してみて。みんなの前でいきなり気持ちを話すのが難しい人は、パスでもいいよ。」と声をかけると、3分の2以上の子が「パス」と口にする。そんなところからスタートした5・6LG。
「男子が嫌だ」「女子がうざい」「6年生がこわい」「5年生がきもい」年度はじめは、子どもたちから、そんな言葉もちらほら聞こえていた。「そんなことを言うもんじゃない」と注意をすることは簡単だけれど、恐らくそれだけでは、その言葉の背景にある子ども達の願いや訴えはなくならない。では、どうするか。
4月当初の5・6LGスタッフの議事録を見返してみると「まずは5・6年生が多くの時間を過ごす5・6LGを、子どもたちにとって安心安全なコミュニティに」そんな事が書かれていた。
「子どもたちにとって安心安全なコミュニティがあるからこそ、そこを飛び出して一人ひとりの興味関心をもとにチャレンジができるんだ」そんな想いをもとに、子どもたちに対してどのように関わっていくのが、子どもたち自身にとって良いか、どんなコミュニティをつくっていきたいか、本当に多くの時間、5・6LGスタッフ同士で対話を重ねてきた。
時にはスタッフ同士のミーティングの空気が悪くなる瞬間もあったし、時には勤務時間内では足りず、あすこま、もとき、あさは、KAIさん、みんなで集まって焚き火をしながら深夜まで話し込むことも。そんな時間も、いつも子ども達の話を中心に置いて語り合っていたのが印象的だった。
そうやって共通の時間を過ごしながら、お互いの教育観や、その背景にあるこれまでのストーリー、それぞれがかけている認知のメガネなども確認し合い、スタッフ同士の理解も深めていった。
そんなやり取りを通して「大切にしていきたいこと」を少しずつ、スタッフ同士の共通言語として紡ぎ出し、子ども達にも手渡したり、活動の中で扱っていった1年間だった。
・一人ひとりの力を信じること
・一人ひとりの意見をなるべく尊重すること
・個をなるべく丁寧に見取り一人ひとりに合った関わりを模索すること
・必要な時はなるべく丁寧に介入すること
・コミュニティとしての力を高めていくこと。
5・6年生LGスタッフ同士で「あーだ、こーだ」言いながら1年間を通して互いの共通言語にしてきたこと、行ってきたことを振り返ってみると、そんなことだったように思う。
ある時、5・6LGでの活動を終えた後に、いつも自分にも「どう感じた?あっきーから見て、どうすれば更に良くなると思う?」とフィードバックを求めてくれるスタッフのあすこまから、こんなフィードバックをもらったことを今でも覚えている。
「あっきー、さっきの時間のファシリテーション、少しイライラしていた?」
「 ”もう6年生なんだから” って表現を使っていたけど、それは大人の都合の言葉だと思うよ」。
他者からのフィードバックを受け取るのがなかなか苦手な自分は、全く関係性ができていない相手からであれば「そんなことない」と突き返してしまいそうなのだが、彼のフィードバックは丁寧に受け取りたいと思えた。それは、あすこまや5・6LGスタッフとのチームが、自分の言葉も丁寧に受け取ってもらえると分かっている、安心安全な場所になっていたからだった。
そして、「こういうコミュニティへしていきたい。その為に、おとなは子どもたちにどう関わるといいか」という問いを投げ合い、何度もコミュニケーションを繰り返しているチームの仲間からの言葉だったからだ。
アウトプットデイが近づいた2月中旬のテーマプロジェクトの時間。むさし(6年生)が、開始の時間に遅れてふらっと部屋へ入ってきた5年生の子に、「一緒にやらない?」と声をかけていた。声をかけられた子は、嬉しそうに活動に混ざっていった。4月当初は5年生と混ざれずにいた彼が、異年齢の子を気にかけている様子がとても頼もしかった。
2月21日、今年度最後のアウトプットデイ当日、5・6年生で円になり「最後のアウトプットデイだね。今日の意気込みを一人一言ずつ、どうぞ」と声をかけると、一人ひとりが思い思いに意気込みを口にした。
最後のテーマプロジェクトとして取り組んできた「演じる〜We believe in ourselves〜」のアウトプットとして行う即興演劇について意気込みを語る子、わたつくの時間に沢山練習をしてきた合奏についての意気込みを語る子、アウトプットデイ実行委員会についての意気込みを語る子。
4月と同じ、円になって語るシチュエーションだったが、「パス」と口にする子は、ひとりもいなかった。
円の中に入るのが苦手だったある子が「自分はやっぱり、舞台に立って即興演劇は(自分にとってはパニックゾーンなので)しません。みんなの様子を、外から応援したいと思います。」と言葉にし、そんなその子なりのチャレンジ宣言を、他の子たちが穏やかな表情で受け入れていた。
「あぁ、あたたかいコミュニティになってきたな」そう感じた瞬間だった。
3月に入り、「このラーニンググループが終わるのが嫌だ」「このラーニンググループが、本当に楽しかった」そんな声を、多く聞くようになった。
5・6年生の子どもたちにとって、このコミュニティーが、そう感じられるものになっていたのだということに対する喜びや、そんなこの子たちとの1年間が終わることへの寂しさや。子どもたちの声を聞いて、自分の中にも色んな感情が生まれていった。
もちろん、中には早く次の学年へ移りたいと思っている子もいたかもしれないし、全ての5・6年生にとって安心安全なコミュニティになっていたかと言えば、課題はまだまだあっただろう。
そもそも、スタッフがどれだけ子ども達を想いアプローチを模索したところで、集団での活動が本当に苦手な子もいるかもしれないし、どうしても距離が縮まらない人間関係というものもあると考えている。(大人の世界だってそうだ)
だからこそ、子ども達が複数のコミュニティ(例えばホームのような)を持ったり、多様なおとなと繋がることができる風越学園のカリキュラムに対しては、僕自身非常に価値を感じている。
それでも、4月の当初に比べ少しでも、5・6年生LGが子ども達にとって安心できるコミュニティへと育っていたのだとしたら、それには子ども達自身の力に加え、我々おとな同士がチームになっていけたことが要因の一つとして影響しているのではないかと考えている。
スタッフ同士がお互いのことをリスペクトしつつ、それぞれの意見に耳を傾けようと試み、時にフィードバックもし合いながら、一人ひとりの子どもたちにとってのより良い関わりを一緒に考えてこれたように思う。
5・6LGスタッフ同士がそんなチームになろうと模索し体現してきたからこそ、子ども達一人ひとりにとっての安心安全な環境、そして集団にとっての安心安全なコミュニティへと繋がっていったのではないだろうか。
共に頭を悩ませながら過ごした5・6LGのスタッフたちとの時間から、子ども達に関わる大人同士が丁寧に対話を繰り返し、チームになっていくことの重要性を、改めて学ばせてもらった一年だった。
5・6LGの枠を超えて風越学園全体に目を向けてみると、まだまだ僕自身がゆっくりと対話をできていないスタッフも沢山いる。
早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け
時々耳にする格言があるが、僕は、この学校でどう在りたいのだろう、どう変化していきたいのだろう、どんなチームの一員でありたいのだろう。