遊びと学び 2019年9月26日

子どもの育ちを見とるって?

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2019年9月26日

こらぼジャーナルのおもな書き手である甲斐崎、通称KAI。KAIさんがどんなふうに子どもを見ているのか、ずっと興味がありました。同じ子どもを見ていても、私(編集部・辰巳)とは違う景色が見えているように思えてならない。誰かと子どもの育ちの見とりについて話してみない?と提案してみたところ、KAIさんから指名があったのは臼田、通称だんちょ。理由を聞くと、幼稚園メンバーの中でも異質だから、と。うん、わからなくはない。そんなわけで、甲斐崎と臼田の考える「子どもの育ちを見とるって?」をご紹介します。

見とりとは、子どもの何を見ているか?

臼田:こないだ平野朝久さんの『続 はじめに子どもありき ー基本原理と実践ー』を読んでいたら、“教育では子どもの姿を見とると言います“って書いてあって、見とりってこのことか!って初めて知ったよ。でも、結局のところ見とりってなんだ…?学校現場は学習が目的だから、そういう言葉が生まれたの?

甲斐崎:見とりっていうのは、学習場面に限らない児童理解ですよ。子どもの行動を客観的に観察したり、その行動から子どもの考えや思いを想像したりすることです。

辰巳:ただ目に見えて現れる行動を観察するだけでなくて?

甲斐崎:そう。どういう子どもの心理から、 今のその行動が起きているかを見るんです。何をやっているかだけでなく、何かに原因があったり、子どもの感情から行動が生まれているんじゃないかな、という前提で見る。今の行動よりも前の段階を考えてみるわけです。僕の場合は、集団をファシリテーションする仕事をずっとやってきたので、環境や集団とその子の行動との関係性を見ることは多いです。

辰巳:KAIさんが観察から見とったことを、子ども本人に確認することもありますか?

甲斐崎:ここはちょっと気になるなと思うことは質問してみますね。「今、なんか困ってることある?」とか、「今、なんでそうしたの?」というふうに。でも、基本はしません。下手に質問すると、(この大人は何を期待しているのか?)って思われてしまう。その結果、子どもの行動が歪んでしまうことがあるから、質問するのは難しいですね。

辰巳:その子の行動は何がそうさせているのかを想像することは、保育の現場でも似たようなところがありそう。

臼田:そうだね。保育はそういうのばっかりかも。話しはじめたばかりの幼児が使う言葉は、私たちの理解している言葉とイコールとは限らないし。一方で、幼児は「何してるの?」って大人が聞いても、影響されず自分の思いは言えることが多いかもしれない。私もまず子どもに出会ったら観察はするな。今日は挨拶したら目が合う、合わないとか。今日はそういう挨拶の仕方をするんだとか。自分とだけでなくて、スタッフや友達との関わる様子含めて見るかな。

辰巳:それが、その子への次の関わりにもつながる?

臼田:うん、次の関わりとか、その子の行動の背景の可能性を積み重ねていく感じ。次に何かが起きた時に、登園前の何かを引きずっているのかも、などと想像して、こちらの関わりの選択肢を増やすというか。

辰巳:何のために観察してるかっていうと?

臼田:何のために?んー。その子の今を状況的に判断したいからかな。

辰巳:それをせずに、保育をするとどうなる?

臼田:保育者よがりの保育になっていくよね。
KAIさん、風越では、スタッフによる見とりの重要性がたびたび話題になるけれど、それはどういう理由で?

甲斐崎:人は、なにかを知りたい、わかりたい、できるようになりたい、という気持ちがあって初めて学びに向かうよね。その時に、スタッフが子どもの思いや考えを見とり、その子に合った学びの内容や方向性をサポートすることが必要です。風越学園は、子どもの「〜したい」を学びの出発点に考えているから、スタッフが子どもの学びの姿をどう見とるかということが重要視されるんだと思う。

臼田:見とりって、見とる人の性格もあるだろうし、歩んできた人生にもよる気がする。

甲斐崎:そうそう。一人ひとりの見とりの物差しがあって、それは同じ物差しじゃない。同じ子を見ていても、介入するタイミングや、そっとしておこう、あるいは気持ちを聞いておこうっていうのはバラバラだよね。僕はけっこう遅いほうだし、だんちょも遅いような。

臼田:うん、他のスタッフが丁寧に関わるから、私は遅めでもいいなーって思ってる。

甲斐崎:バランスとってるの?ほんとかな??(笑)

臼田:あと、この場面は子どもが自分で立ち直ってほしいというときは、無言でほかのスタッフが関与しないようにジェスチャーで知らせることもある。すると、あとで「なんであの場面はああだったの?」って、スタッフが疑問に持つから、お互いの見とりを話し合うきっかけになってる。

辰巳:その子が自分で立ち直ってほしいというのは?

臼田:だって、できるっしょ。

甲斐崎:失敗してもオッケーだと思ってるよね。

臼田:そう。もうだめー、もうやっていけないって、自分の世界に入り込んじゃう子どももいるんだけど、そんなことないよー、っていう風を送り続けたい。

辰巳:関与しなかったら、ずっとだめーというスパイラルの中にいる子には?

臼田:そういう時は、「あ、晴れてきたなー」とか、その状況とは関係のないことを投げかけて離れたりする。視点が変わればいいこともあるし、しばらく悩んでたらいい時もあるから。その加減が、見とりから活きてくるのかな。

甲斐崎:そうですね。

見とる大人の在り方って?

辰巳:KAIさんを見ていると、好奇心を持って子どもをおもしろがり続けるのは一つのスキルなんだなって思うんだけど、どういうマインドセットをしているの?

臼田:私もそれ知りたい。

甲斐崎:まず大前提として、子どもっておもしろいよね。あと、以前ちょっとしたターニングポイントがあって、苦手な子どもをつくらないって決めたの。
ある年、学級で起きるいろんなできごとの原因をつくっていると僕が思い込んでいた子がいて。でもよく考えたら僕がその子と全然話せてなかった。その子がいったい何考えているかを真剣に聞いたことがなかったんだよね。なぜかというと、なんか苦手だったから。それ以来、新年度の始めにクラスに苦手だなって思う子を見つけたら、ずんずん僕から関わると決めた。こちらが苦手だと思っていると、子どものほうも僕を苦手と思ってることも多くて。でも関わっていくと、お互いに誤解も解けるんです。

臼田:クラスの子ども一人一人のおもしろいところや強みを見つけられる?

甲斐崎:見つけるのが得意だと思います。だからおもしろがれる。

辰巳:その子ができないこととか苦手なこととか、こちらの思い通りにいかないこともあると思うが、そこにはフォーカスしない?

甲斐崎:うん、それをしちゃうとお互いが辛くなるしね。強みを伸ばした方が、絶対おもしろい。これは何にでも言えると思うけど、失敗した時の構造を解明して、じゃあ次はこうしようと考えるより、成功した時の構造を考える方が、絶対に成長につながると信じています。
一人一人の子どもを見とるときにも、その子の欠点や弱点を見つけて指導するよりは、この子はこういうことが得意なんだ、と良いところだけに注目してフィードバックする。一つのテクニックではあるけれど、僕の場合は不適切な行動には注目せずに、適切な行動が現れたときにそこを強化するような働きかけをしますね。

見とりの力をどう伸ばす?

臼田:KAIさんは、スタッフにも見とりしてる?

甲斐崎:見てるけど…、アプローチはあんまりしないですね。

辰巳:いや、してくださいよ(笑)。

臼田:見えちゃうと、関係性も見えてきちゃいますよね?

甲斐崎:関係性の方が見やすいんじゃないですかね。今は、一人一人が自分の立ち位置や居場所、どんな関係性の中に自分がいるかを一生懸命考えていると思う。だから言いたいことも言えなくて難しいところというか。少しずつ変わってきていますけどね、かきまわす感じの人が出てきたので。おもしろいですね。だんちょも見てるでしょ?

臼田:うん、私はその上で関わってますから(笑)。でも私が残念なのは、見てるくせに、その人が話す表現の理解に追いつけず、何も言えなくなる時があるの。見えていることを、全然活かしきれてないなって思う…。なんか言葉にすると陳腐になって、あれ違うなって。もしかしたら幼児と一緒かも。だから子どもに寄り添えるのかな(笑)。

辰巳:見とりができることと、言葉で介入する・しないと言うのは、次の段階なんだね。
そもそも見とりの力って、どうやったらついていくんだろう。

甲斐崎:そこに行き着きますよね。たとえば、僕がこらぼジャーナルを書く時は、撮った動画を何度も何度も見返しているんです。その子のどんなに小さな行動や言葉でも見逃さないように見るというのは、見とりのすごくいいトレーニングになってる気がします。たとえば、こらぼジャーナル(8)で紹介したまりがちょっとしたゴミを拾う行動は、後から動画を見直しているときに気づいたんです。あの場で自分が見ていたこと以外に何が起きていたか。動画を見直して、子どもの表情や言葉、行動の一つひとつに腑に落ちることがたくさんある。そういう積み重ねがあると、あの子がこういう表情をしたということは、この前にこういうことがあったんじゃないか、と想像する引き出しが増えるんですね。その行動の次は、こういう行動が起きるかもしれないという予想ができる。すると、こちらの関わり方としては変わってきますね。

辰巳:関わるスタッフがその子にどんな見とりをしているかによって、その子の次の行動や言葉が変わってきませんか?

甲斐崎:それは変わると思いますよ。

辰巳:それにスタッフが自覚的になるにはどうすればいいのかなと思って。

甲斐崎:そこね。

臼田:私がよくやるのは、保育者と子どもの近くを歩きながら、「へぇ、それいいじゃーん」とか言いながら、2人ともに気づいてもらおうとする。「あー、だからそうしてるんだ、おもしろーい!」とかいうと、たとえば子どものやっていることを止めようとしていた保育者が(あ、そういうおもしろいことしてるのか)って視点を変えられたりする。保育者と子どものどっちも傷つけずに導いていきたい派だな、私は。

甲斐崎:あ、そういうのだったら僕もやってるなー。

臼田:それにしても、風越では子どもの見とりをした上で、一人ひとりの子どもに合った学びの内容や方向性をサポートするってことか。大変ですね…。

甲斐崎:めっちゃ大変ですよ。一つのホームグループ(*1)が20人くらいといっても、全員を見とるのは相当大変だと思いますよ。

辰巳:しかも異学年だしね。同一学年だと比較で相対的に見とることもできるだろうけれど、異学年だとその物差しが使えないわけで。

甲斐崎:大人がどうやって子ども一人ひとりの物差しをつくるかが課題ですね。

臼田:子どもだけじゃなくて、大人も振り返りジャーナル(*2)書いたら、おもしろいかもね。

甲斐崎:それ、いいね。子どもとの関わりをふりかえって、次はどうしたい、とか書いて、次の関わりについて相互にフィードバックしあう。まずは子どもを見て、言葉にすることだな。見とりの力をつけるには、そこからしか始まらない気がします。

(2019/7/19 談)

*1)ホームグループ…軽井沢風越学園におけるクラスのこと。異学年で20名程度の子どもに対して2名のスタッフが担当する予定。

*2)振り返りジャーナル …起きた内容、プロセス、それに関わった自己などの経験について書く「振り返り日記」のこと。子どもが日々の生活や学びをふりかえり、自分の成長に自覚的になり、次の行動を考えるきっかけとすることが目的。スタッフが子どもの育ちを理解するツールにもなる。

参考書籍)
子どものことを子どもにきく」(新潮OH!文庫、杉山亮)
子どもの世界をどう見るか 行為とその意味」(NHKブックス、津守真)
はじめに子どもありき」(東洋館出版社、平野朝久)

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園設立準備のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、中村、三輪が担当。

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