風越のいま 2025年6月26日

マイプロノートによって、何が起きているかーマイプロノート、一般販売中

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2025年6月26日

ここ数年、各地の小学校・中学校では総合的な学習の時間を使って個人探究に取り組むなど、マイプロジェクトの時間が公立学校にも広がっています。

2020年度の開校当初より風越学園で大切にされてきた、子どもたちの「やってみたい!」を真ん中に置いたプロジェクトの時間。2023年度に「マイプロジェクト」として再スタートする際に、活動の記録・ふりかえりのツールとして「マイプロのーと(プリントをクリアファイルで管理)」を手渡し、子どもたちと共に使ってきました。1年間のお試し・改良期間を経て、2024年度はノート製本したものを作成。ノートであることで、年間の見通しが持ちやすくなったり、書けなかった日も含めてその日の状態を継続的に書き溜めることができました。

ノートの使われ方は、子どもの学年によって様々で、プロジェクトの活動内容やそこで起こった心の動きについて言葉でびっしり書き連ねる子、イラストを中心にその日の印象的な出来事を描き残す子、スタッフとやりとりして代筆してもらう子など、多様な記録やふりかえりがあり、そして書いたものを異年齢のホームの子どもたち同士で共有する時間などが見られました。

2024年度版マイプロノート

2025年度に向けて、スタッフ有志による「伝わるデザインと使われるデザイン」チームがマイプロノートの改編を進めました。具体的には、日々子どもたちが使用している様子を思い起こしながらアップデートできる箇所をあげたり、アウトプットデイで子どもたちや来場者からフィードバックをもらったり、印刷・製本をお願いする藤原印刷さんを訪問しての印刷の仕組みを学び、より使いたくなるノートを目指して形状や紙質を検討したり、、、。

今回の改編では、より「使いやすい」「書きやすい」デザインを意識し、記録用ページを大きく変更しました。子どもたちがノートを使って、自分たちで継続的にマイプロを進めることができるよう、①計画→②ふりかえり→③次回の計画というフレームをはっきりと置いてみました。また、活動中のメモや写真などのスペースが必要な記録がしづらいような子どもたちの姿から、日々の記録を見開き1ページにすることにしました。方眼罫だった箇所をドット罫にすることで、文字の大きさにかかわらず、まっすぐ書きやすい工夫をしました。1〜4年生用は、5〜9年生用とフォーマットは近づけながらも、小さい子どもたちが書きやすいように項目数を減らしたり、余白のスペースを大きくとったりしています。

1〜4年生の日々の記録ページ

5〜9年生の日々の記録ページ

まず表紙をめくると、「わたしにとって、マイプロジェクトとは・・」を書きこめる左ページと「あなたにとって、マイプロとは?」っていうメッセージが目に飛び込んできます。

2024年度版からマイプロノート制作の中心メンバーであるあず(栗山)は、このメッセージやマイプロノートに込めた願いを以前、こんなふうに語っていました。

「マイプロ」って、子どもやプロジェクトの数だけ違うマイプロがあって。違うことと同じことがあるからこそおもしろい。そのおもしろさを一緒に味わいたいな、子どもたち一人ひとりに「あなたにとってマイプロとは?」を聞いてみたいなっていう気持ちから、最初のメッセージを書いてみました。

1年が始まるときとノートを使い終わった後では、少しずつその問いも変化しているんじゃないかなと思って、ノートの最後のページに「1年を終えて わたしにとって、マイプロジェクトとは…」を書く欄をつくりました。

ノートのデザインをお願いしたニシム(西村)によって、マイプロの記録ページに小さな工夫が組み込まれて仕上がってきた。それを見て、小さな「やってみた」がいっぱい積み重なっていくと、いつの間にか「やってみたい」が実現されていくということが確かにあるなってあらためて思いました。
ノートがあることで、スタッフに読んでもらうためでなく、自分のためのノートになっている感じもする。小さな自分の言葉の断片や友だち・スタッフが残してくれた言葉と、マイプロの時間によって、「わたしをつくっているんだな」と実感できるといいなと思う。そして、その子なりの使い方が生まれたり、私たちが想定していなかった使われ方が始まるといいな。


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そうやって生まれた新しいマイプロノートを使い始めて約2ヶ月半、子どもたちはどんなふうに受け取っているのでしょうか。まずは、図工室での子どもたちの様子に変化を感じるというこぐま(岡部)に聞いてみました。

たとえば、今日のサクタロウ(3年)。ハチプロジェクトに取り組み、蜂の巣箱の入り口を「コ」の字型に切る場面で、今まで使ったことのあるノコギリでは、「コ」の字には切れず苦労していた。ある日、電動糸ノコギリ(以下、糸ノコ)と使い方をマイプロノートに書きながら、板を自在に切る4年生のマユ・ヒノキ・マルの様子を見て、これを使えばいいんだと気づき、糸ノコの修行がしたいと図工室にやってきた。そのために何が必要かやりとりして、糸ノコの名称と使い方や安全について、図工の教科書の内容をマイプロノートに書き写すことにした。コピーをとって書き込むよりも、自分にとって必要なことをノートに書き写すほうが、より身体に入っていると思う。

すると、近くにいたアサ(3年)が興味津々にノートを覗き込み、糸ノコってこういうところが危ないんだ、こんな切り方ができるんだって、サクタロウが書いているマイプロノートを見ながら学んでいる様子があった。
ノートがマイプロに取り組む間にすぐそばにあることで、近くにいる友だちにその子のプロジェクトが伝播する触媒になっているんだよね。自分にもこういうことができそうという刺激や、自分もやってみたいという憧れになる。
ノートがなく、ただつくってるだけだと、近くで見ていてもその友だちが何をやっているか、深いところまではわからない。ノートを介して深まった、広がったっていう経験が、図工室や工房ではあちこちで見られている。

マイプロ後のふりかえりでサクタロウに声をかけると、今日で糸ノコのことがわかったから、来週はいよいよ木を切るんだ、と教えてくれた

次の写真は、サクタロウよりも少し前に糸ノコのことをノートに書き写していた4年生のマユ。隣で一緒に写す友だちが自分とは違う着眼点であることに気づきます。
4月からの自分のマイプロノートを振り返って、一番充実していた日/ノートがいい感じに記録できた日を選んでみよう、というスタッフからの提案に、この日のページを選んでいました。

また、ノートへのスタッフからのコメントを通して、次にこんなことをしてみるとどう?と提案し、それを他の子どもが見てヒントになるサイクルもあるとこぐまは教えてくれました。

ふりかえりの場で友だちのノートに書かれているこぐまのコメントを、じーっと眺めています。

では、今年度あずに代わってマイプロをぐっと進めているまっつー(きっと誰よりも全校生徒のマイプロノートを眺めている)は、ノートによる子どもたちの変化をどう見ているのでしょう。

こぐまさんの話を聞いて、図工室以外でも同じようなことが起きているなと思います。
日々の記録が、見開き2ページになったことによる変化は大きいんじゃないかな。
右側にたっぷりメモ・記録ができる余白のページがあることで、文字だけでない使い方を低学年の子どもたちもできる。写真を貼ったり、料理のレシピを書いたり、野球の守備の地図を書いて作戦考えたり、練習メニューを書き出したり。左のページでは「楽しかった」とだけ書いて、右のページでは絵を描いてたっぷり表現する、みたいなことができるようになりました。
中学生たちの中には、右ページにプロジェクトのアイデアをマインドマップ形式でたくさん書き出して、自分のひらめきを出すツールとして使っている様子も見えます。単に日々の記録に留まらない使い方がされている気がします。
スタッフからのコメントの話だと、ノートに何にも書かない子どもの代わりにぱわーがその日の様子を書いてたりするのがおもしろいなと思ってて。それが子どもの手元に残っていく。理科室でのマイプロに伴走しているはるやんは、子どもたちがマイプロ中にノートに記録することを積極的に促してるな、みたいなこともノートを見るとわかるんです。

1〜4年生のふりかえりで話すまっつーの後ろ姿

マイプロの前半と後半の間(90分ずつ)に校内放送を入れ、前半の振り返りを書くことを促進することで、ノートを持って活動場所にいく子どもが増えてきました。他にも、1〜4年のホームベース(ホームごとに荷物を置く部屋)にはノートを立てるスタンドを設置し、子どもたちが見てほしいページを開いておけるようにしたり、ノートの横に作品を展示できるようにしたり。文字だけで説明するのが難しい下級生でもマイプロのことを他の人に伝えられる工夫をあれこれ重ねています。

1〜4年生が使うホームベースのマイプロノートコーナー

「わたしにとって、マイプロジェクトとは…」のページをコピーして貼り出した掲示板にはスタッフも子どもも足を止める

そんなマイプロノートの一般販売を始めることになりました。子どもだけでなく、大人のみなさんのマイプロジェクトを応援するノートにもなっています。実践者のみなさんには、目の前の子どもたちのマイプロジェクトを支えるヒントに使っていただき、フィードバックを寄せてもらえるとうれしいです。ぜひ、この機会にお手元でご活用ください。(マイプロノート以外にも、風越学園が出版する書籍も購入することができます!)

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また、スタッフがどんなことを大切にしながら、どんなことに葛藤しながらマイプロジェクトに伴走しているか、子どもたちの様子とスタッフへのインタビューをまとめた映像を有料配信しています。よろしければこちらもぜひご覧ください。
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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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