風越のいま 2025年6月27日

こどものじかん_4月

こどものじかん
投稿者 | こどものじかん

2025年6月27日

幼稚園の園だより「こどものじかん」より、幼稚園スタッフが綴るエピソードをお届けします。


◯「タロウの面白い!が広がる」2025.04.15 (坂巻 愛子)

今年度幼稚園に仲間入りしたタロウ。この日、タロウは着替え場所にあるペダル式のゴミ箱の前で長い時間座り込み、ゴミ箱に映る自分の顔に没頭していました。思いっきり口を「にー」っとしたり、「おー」としたり、ベロを出したり…。静かでじっくりとした時間が流れていました。

その最中、ふとした瞬間にペダルに手がかかり、蓋がぱかっと開きました。タロウは一瞬驚いた表情になって手を離し、そして今度は慎重な面持ちでべダルに手をかけました。その表情から緊張が感じられ、私も一緒に息を飲むようにじーっと事の行く末を見守ることにしました。タロウは力を込めていた手をぱっと離して、バタンと蓋が閉まると、にかーっと表情が緩んだと同時に「あー」と言って手を叩き私を見ました。それからは何度も何度もペダルに手をかけては、「ほら、開くでしょ、閉まるでしょ」と言わんばかりに満面の笑顔になります。

しばらくその様子を見ていたナツキとリツが「何してるの?」と言いました。「タロウくんね、すごい発見をしたんだよ。ゴミ箱のペダルを押すと蓋が空いて、離すと蓋がしまるの」と伝えると、二人はその場に座り込んで、タロウが繰り返す動きを見つめ始めました。タロウが手を叩いて喜ぶと、二人も手を叩いて笑顔に。すると、タロウもナツキとリツに笑顔を向けて、二人の顔を何度も確認するように楽しんでいました。

タロウが出会っている発見の喜びが、リツとナツキの体に繋がっていくような温かな時間。この日以来、ナツキとリツはタロウがおむつ替えをしているところにやってきては、「今日もたろうくん、ゴミ箱で遊ぶかなぁ」と、嬉しい時間を期待するように待っています。

鏡と自分の顔の出会いも、手をペダルにかけると蓋が空くゴミ箱との出会いも、タロウは生活の中でいろいろなことに心を留めて、何度も繰り返し試しながら、心に広がる面白い!をじっくりと育んでいます。

◯「友だちがいること」2025.04.18 (橋場 美穂)

朝、姉のユカリと登園してくるジンタロウ。ジンタロウは風越で姉たちと遊ぶことを楽しみに入園した。姉も同じようにジンタロウの入園が楽しみで仕方がなかった。入園から数日はどっぷり姉弟で遊び、お互いが楽しんで過ごしていたが数日経った頃から姉弟ゲンカが起こっていた。

ある朝のこと。
みほ「じんちゃんは、なんでしょんぼりしてんの?」
ジンタロウ「ゆーちゃんと一緒に遊びたいのにだめっていう。にげちゃう・・・。」
みほ「ゆーちゃんは、どうしたいの?」
ユカリ「・・・・・」
トウカ「ゆーちゃんはトウカとかエマとかと遊びたいんだよね」

そう。ユカリはこれまでずっと朝の時間は、早い時間に登園し荷物を整え、自分のペースで遊びを作り始めていた。次々に登園してくる友だちがユカリの遊びに加わっていくという朝の流れがあった。

ユカリに一つ提案した。「ゆーちゃんの気持ちはよくわかる。全然、(友だちと遊びたいことは)悪いことじゃないんだよ。ただ急にいなくなったり、隠れちゃってもじんちゃんはわからないから隠れたりしない方法考えない?」すると、うなずくユカリ。そして二人はしょんぼりとだんまりの時間。

そんなジンタロウの様子が心配になったのかな。ユズルが間に入ってきた。そしてジンタロウの指をナデナデしている。それに気がついたジンタロウも撫でられている指をみている。二人ともどんな気持ちなんだろう。そこに流れる空気は何だかほんわか温かい。


しばらくしてジンタロウが、みほのところに来た。「ゆびきりげんまんした!」「ゆーちゃんがお家に帰ったら、あそんであげるからね。ってゆびきりげんまんした!」と。納得したのか友だちの近くに戻っていった。

4月の朝は、お家の人と離れる事にそれぞれが葛藤している。たっぷり泣いてまだお家の人と一緒にいたい気持ちを表現する人もいれば、静かに涙を流している人もいる。ユズルもジンタロウもまだまだ不安な瞬間はあるはず。でももうすでに友だちを感じながら過ごしているのがわかる。

駐車場からカラ松林までを歩く道のりでみんなは少しずつ幼稚園で遊ぶ気持ちにスイッチが切り替わっていくようだ。森や屋外で過ごしていると驚くほど早く気持ちが切り替わる。そしてまわりを見渡せば友だちの遊びが目に飛び込んでくる。森に包まれ、友だちに支えられながら前に進んでいる年少のみんなだった。

◯「生きるために仕方なかったんだよ」2025.04.23 (遠藤 綾)

わこさん(斉土)の田んぼに羊のウンチをもらいに行った翌日の4月23日。畑に向かう途中で黒い塊を見つけました。よくみてみると、頭もお腹も食べられてしまったカラスです。年少のエイちゃん、ヒロくん、年中のスナオ、キノ、ジョウ、アキト、ナツキ、リツ、メイ、年長のカイ、モトアツ、テルホというメンバーでカラスを囲み、こんなやりとりがありました。

カイ:炭かと思ったけど、カラスだ。どうしちゃったんだろうね。あー、おなかが食べられちゃったんだ。
カイ:キツネかもしれない。でも、キツネも生きるために仕方なかったんだよ。
スナオ:クマかもしれないよ。
カイ:クマも(生きるために)仕方ないんだよ。
(しばらくの間、ああでもないこうでもないとやりとりが続く)
アヤ:このままだとどうかな?
メイ:このままだと、誰かに踏まれちゃう。
アヤ:どうしたらいいかな。
メイ:土に埋めてあげる。
スナオ:ミミズコンポストは?土になるんじゃない?
アヤ:ミミズさんが食べてくれるってこと?
ナツキ:でも、骨はどうなる?
モトアツ:骨は、化石みたいになるんじゃない?恐竜の。



この後、新聞紙と手袋をYYに取りに行き新聞紙の上にカラスをのせて、落とさないようにゆっくりミミズコンポストに運びました。ミミズコンポストには、かまどの修理をしていた9年生がいて埋葬を手伝ってくれました。

森の中では、こんなふうに鳥や動物の死に出会うことが時折あります。そんな時私たちスタッフは、子どもがいま経験していること、そのリアリティを大事にしたいと思いながら関わっています。

森の中を活動拠点にするということは、人間以外の生き物たちの世界にお邪魔するということでもあり、その時どのようなふるまいが適切なのか、ということは本当に難しいなぁと感じます。例えば森の中に自生している木の実を取り尽くしてしまうと、鳥が困るかもしれない。でも、嬉々として木の実をとる子どもたちにどのように伝えると丁度いいのか。その子の状況や環境にもよるのでこれという回答はなく、いつもそうした複雑さの中に私たちはいます。

このエピソードでは、カラスを食べた動物の側に立って、生きるために仕方ないことだったとカイちゃんは話しています。カラスからみると、キツネからみると、ミミズからみると、僕からみると、と森の中に共にいるからこそ膨らんでいく他者への想像力を感じた出来事でした。

#2025 #幼稚園 #森

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